原発ゼロの道

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漁業補償金で揺れる祝島――強硬な山口県漁協と祝島の人たちの闘い

2014.01.06 Mon

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現地の状況について、次のような報告がありましたのでお知らせいたします。
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漁業補償金で揺れる祝島――強硬な山口県漁協と祝島の人たちの闘い

上関原発の建設を30年以上にわたり反対してきた、対岸に位置する祝島の人たち。
海に生きる誇りにかけて、建設をめぐる漁業補償金受け取りを拒否してきたが、
山口県漁協は島の人たちの声を封じ、漁業補償金を受け取らせて建設を強行しようとし、
祝島の人たちはたたかっている。(中略)

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「漁業補償金については二度と協議しない」。
2012年2月22日、山口県漁業協同組合の祝島支店はそう決議した。
この「漁業補償金」は上関原発にかかわる漁業補償金のこと。
日本では本来、漁業の補償をしないと原発をつくることはできない。
だからこそ祝島の漁師は受けとりを拒む。
だが祝島漁協は合併で山口県漁協の祝島支店となり、
本店から何度も受けとりを迫られた。
そのたびに拒否決議を重ねた末、二度と協議しないとの決議に至ったのだ。

終止符を打ったはずだった。重荷をおろした思いもあったろう。
約11億円の漁業補償金を拒みとおした祝島の漁協正組合員は、その後1年で10人ほど減った。
若手に船を譲って組合をやめたり、正組合員から准組合員になったり、他界したり。

原発容認の議長

しかし13年2月28日、県漁協は漁業補償金について祝島支店の総会の部会を開いた。
本店から来た仁保宣誠専務理事は、理事会が開催を決めた総会の部会だから
本店が決めるとして組合員の声を封じ、祝島で慣習的な挙手でなく、
島人が不慣れな無記名投票で議長選びを押しきった。
議長は採決方法を決める権限をもつ。経験上、採決方法は結果に影響する。
議長が要なのだ。

議長になったのは祝島支店の運営委員長。
旧祝島漁協の組合長にほぼ相当する役職だ。
県漁協の支店になった後も上関原発にあらがう組合員たちが就いていたが、
原発準備工事へ現場での抗議を余儀なくされ立候補の届けが遅れた数年前からは、
原発を容認する立場の組合員が就いている。

漁業補償金受けとりについても無記名投票で採決となり、
31対21と10票差で、漁業補償金の受けとりを認める声が拒む声を初めて上まわった。
数日後には、12年10月に失効の見込みだった原発のための埋め立て免許が、
山口県知事の変節であと1年失効しない見通しとなる。

みんなの海だから

祝島の漁協組合員39人(正31+准8)は、漁業補償金を受けとらない意思を
1人1枚の書面に署名捺印して明示し、3月22日に県漁協へ出した。
それでも県漁協は補償金配分案を勝手に作り、
6月21日に祝島支店の総会の部会を開き採決しようとした。
議決権をもつ正組合員は53人。うち31人は受けとり拒否を書面で示しているが、
高齢化も著しく、無記名投票になれば誤投票や無効票の不安もある。
島人が知恵を絞り奔走すると、台風の接近を理由に延期された。

39人はその後、採決方法や可決割合などの
事前説明を求める要請書を県漁協へ送っている。
だが実質無回答のまま、次は8月2日に県漁協は総会の部会を開こうとした。

当日、本店の理事たちが来島すると、漁師でない島人が船着き場に詰めかけた。
住民の約9割が原発計画に32年あらがう祝島では、
「漁師だけの海じゃない」という声が多い。「みんなの海だから守らんと」と
祝島支店の副運営委員長、岡本正昭さんもいう。
「原発震災」が起きてしまい、それは実証された。
にもかかわらず、たとえば電気事業法で地元同意・漁業補償・土地取得の3点のみを
国が発電施設立地許可を出す前提とし、
住民の制度上の交渉機会を用地買収と漁業補償に限定して、
日本は原発を進めてきたのだ。

だが仁保理事はこの日も、「(県漁協が)説明責任あるのは組合員だけ」と、
旧態依然の当事者枠を固守する姿勢を崩さなかった。
「(原発に関わることは)組合員だけの問題じゃない」(30代男性)、
「漁師でなしに祝島の一般の者にも説明して」(70代女性)と怒声が飛びかう。
10分ほどすると、理事らは集まりを延期し帰っていった。

「知らしむべからず」

島人の怒りには理由がある。県漁協のやり方は「知らしむべからず」。
定款類を組合員へ配布せず、上関原発を建てさせない祝島島民の会の代表で
准組合員の清水敏保さんが請求しても、2月中に入手できたのは定款のみ。
だが例えば議長選びは、定款でなく規約に「招集者は議長の選任方法を議場にはかる(8条)」、
「議長は出席した正組合員の中から正組合員がその都度選任する(19条)」旨の定めがある。
つまり2月28日に「総会の部会だから本店が(議長の選任方法を)決める」と
押しきった仁保理事に根拠はないことが、規約なしでは分からない。

仕事柄、文字よりも風や潮を読む漁師にとって、定款類の役所言葉は他者の言語だろう。
それと格闘し、他者の言語を介さないとルールが分からない闘いであっても挑む。
その思いを県漁協が弄んだ。

10月17日にも県漁協は総会の部会を開こうとした。
今度こそ事前に採決方法などの説明を得ようと、15日には20人以上の島人が本店まで行った。
「県漁協が来るたび祝島の人間関係が引き裂かれる。来ないで」と、
祝島の自治会長で准組合員の木村力さんも訴えたが無回答同然だった。

開催前夜。総会の部会はみたび延期された。手違いで会場が使えなくなったという。
会場だった部屋には翌日、祝島の女性たちがいた。「部屋が空いとったから借りたんよ」と、
各地から続々と届く応援メッセージの布を縫い合わせていた。

(山秋 真)

『ふぇみん』3041号(2013年12月5日)より転載

カテゴリー:祝島沖・上関原発計画

タグ:脱原発 / 山秋真 / 祝島 / 上関