2012.09.16 Sun
福島で〝ものづくり〟をしている女性たちからのメッセージを連載でお伝えしています。
第3回は伊達市保原町で桃農家を営みながら制作を続けている宍戸美喜子さんです。
私の描くもの 宍戸美喜子
専業農家になって3度目の夏が過ぎようとしています。ここ福島では、今年も福島
盆地の暑さの中、桃は甘く、薫り高くおいしくできました。
勤めているときと違い、桃や柿などの農作物に一年を通してかかわっていると、「命」を支える自然界の様々なことに気づき驚くとともに、感慨深い気持ちにさせられます。田圃でうごめく小さな虫たちも、「農」を支えてくれているとともに、私たち人間の汚したものをみな浄化してくれているかのようにも見え、愛おしささえ感じ、さらに自然界にたいする畏敬の念も強くなりました。
畑では、桃の枝に蕾がつき、ふくらんで濃いピンクの花が咲き、散って小さな実が姿を現し、それがぷっくりと育ってほんのり赤みがさし・・・・・・。こんな自然の移り変わりを日々目にすると、私の体の中にじわじわと「生命(いのち)」のエネルギーが充填されてくるような・・・。その生き生きとした姿は美しく、素直に豊かで幸福な気持ちにさせてくれます。これは、ものすごく尊い力だと思わずにはいられません。
そんな偉大な力を育む大元(おおもと)の土が、昨年考えてもみなかった汚され方をしてしまい、農に生きる私たちは途方にくれました。でも、人生のすべてが狂わされ、今もなお埋めることのできない喪失感や、深い深い絶望の中に生きている方々を思えば、田畑で仕事ができ、収穫の喜びさえ味わえた私は、胸がしめつけられ何も言葉はなくなります。
震災・原発事故後、私が初めて筆を持ったのは、その年の夏、なんとか出荷がかなった桃(市場での価格は大暴落ではあったが)の収穫が終わり一息ついたときでした。閉塞感にさいなまれていた当初も、農作物は生きています。日に日に成長していき、手をかけるべき仕事が次々と私たちを田畑に誘い、前述のような姿を見せつけるわけです。そして、手をかけた分が形になった収穫の喜び、そしてそれを「おいしい」と喜んでくれた人たちの存在、思えば、それらのことが、私に前を向かせ、自然にキャンバスに向かわせたのだと思います。ありがたいことです。
キャンバスの前では、「表現」ということの意味を自分自身に問われているような感じを強く持ちました。さらに、描くことで自分の中の薄暗く渦巻くものが鎮まっていくことも実感しました。
あたりまえのことですが、私は、描きたいものを描きたいように描いています。
画面には相変わらず少女がいます。今もけして若々しい明朗さは感じられない表情です。・・・・なぜ私は、そんな少女を描くのか・・・。人に尋ねられても「んー、描きたいから」などと答えていた私ですが。
つい最近こんな思いが沸き起こってきました。
それは、「生きる」ということの深い意味を私は表したいと念じて描いているんだと・・・・。
そして、少女の存在そのものは「人の生きる希望」なのではないか。
私自身に問われた私が出した、今の答えと言っていいと感じました。
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第38回AJAC展にて、特別陳列作家として宍戸美喜子さんの最新作が展示されます。
会期:2012年9月25日(火)〜10月3日(火)(休館日:10月1日(月))
場所:東京都美術館(上野)
詳細はこちらをご覧ください。
宍戸美喜子さんの作品についてのお問合せやメッセージは、awan@wan.or.jpまでご連絡ください。
福島で〝ものづくり〟をしている女性たちからの緊急メッセージ①はこちらから
福島で〝ものづくり〟をしている女性たちからの緊急メッセージ②はこちらから
(構成:A-WAN すずき)
カテゴリー:アートトピックス