2013.10.03 Thu
「企業の社会的責任(CSR)から、すべての組織の社会的責任(SR)へ」。ISO(国際標準化機構)が、もともとCSRの規格として2001年から「ISO26000」を検討してきた途中で、2003年に「C」を外し、すべての組織を対象としたSRの規格にすると決定したことについては、先回ちょっとお話をしました。この規格が、最終的な合意を得て発行されたのが2010年11月1日。今年の11月で、ISO26000は発行3周年を迎えます。
ここで「すべての組織に社会的責任がある」と言われたとき、皆さんはその言葉にどんな印象を持たれますか?わたし自身、長年CSRという単語に馴染んできて、企業の不祥事が社会や環境に与える影響の大きさも見聞きしてきましたから、SRと聞いてすぐ、「“すべての組織の社会的責任”と言われたって、社会や環境に悪いことをしてるのはやっぱり企業が多いんだし(あ、これ偏見も含んでます)、経済的な力を持っているのも圧倒的に企業なんだから、企業からまず、ちゃんと責任取らないと!」って反応してしまったのですが、よくよく考えると、すべての組織の責任って本来、ごく当たり前に存在しているものです。いくら、身近な地域社会や人々の役に立つ活動をしていても、営利を目的としない活動であっても、それ以外の地域や人々に悪影響のある、あるいは社会や環境全体にとって持続可能でない行動がその活動に含まれるとしたら、何らかの配慮や改善をしていくのは当然、と思います。そもそも資源(人的、物的、環境的なあらゆる資源)に限りのある地球上ですべての組織が活動をしているわけですから、社会や環境の持続可能性に対して何らかの取り組みをしていくのも、一部の組織ではなく、すべての組織が引き受けていくのが望ましい点にも異論はないでしょう。ISO26000は、企業だけでなく政府自治体、労働組合、大学、学校、病院、NPO/NGO、マスメディア、消費者団体、その他ありとあらゆる組織に向けて発信されたガイダンス規格、という点が強調されています。もちろんWANだって、わたしの所属するいくつかの団体だって、ちゃんと、この規格の対象にあてはまります。
このように、ISO26000でいいなぁ、と思うのは、すべての組織が対象になっていることです。CSRを学んでいたころには、企業だけを俎上に載せて、企業だけが悪者(あるいは逆にグッドプラクティス)になるケースばかりを拾ってきましたが、企業以外の組織のほうが世の中には多いのですし、すべての組織が少しでも関心をもって、できるところから各自の活動に反映していけたら、もっと変化が大きくなるじゃん?と単純に考えるからです。その上で、わたしが特に、他の規格以上にISO26000に関心を持つようになったきっかけが、ISO26000の策定過程と、その内容の特徴にありました。
ひとつは、先回も紹介しましたが「世界91カ国と42機関が策定に参画し、しかもマルチステークホルダーと言って6つのセクター(政府、産業、労働、消費者、NGO、その他有識者等)から435名が関わったこと」によって、「現在、世界的に最も広く合意を得ている規格」だという点です。策定にかかわった人のジェンダーバランスも配慮されており、約4割が女性だった、という点も注目に値すると思います。ちなみに日本から派遣されたチームには、NPO/NGO代表として一般財団法人CSOネットワークの黒田かをりさんが、策定のエキスパートとして女性で参加されました。
もう一つは、この規格の策定中、組織が取り組むべきテーマを検討していく中で、「ジェンダー」が有力な候補のひとつだった、という点です。現在は「組織統治・人権・労働慣行・環境・公正な事業慣行・消費者課題・コミュニティへの参画およびコミュニティの発展」という7つのテーマが、組織が取り組むべき中核主題として置かれていますが、それに落ち着いたのは2007年だそうです。その他の有力な候補に「ジェンダー」「安全と健康」「経済」「バリューチェーン」などが挙がっていたというエピソードに、わたしは強く惹かれました。「ISO26000の中でジェンダーはどこに行っちゃったの?」と考えたのが、わたしが関心を深めていくきっかけでもありますが、そのことについては、次のコラムでご紹介していけたらな、と思っています。
最後に。今年のISO26000発行3周年を記念するセミナーが、11月1日(金)に開かれます。ISO26000発行3周年記念「SRセミナー~SRとコミュニケーション~SR普及の現在地と今後の展開」。主催の、社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク(NNネット)幹事会メンバーとして、わたしも会場におります。ぜひ、ご参加お待ちしております!(中村奈津子)