この度、「2015年度竹村和子フェミニズム基金」の出版助成金をいただき、拙著『ジェンダー・バックラッシュとは何だったのか――史的総括と未来へ向けて』(インパクト出版会、2016年2月)を刊行することができました。
本書は、2014年9月に立命館大学大学院文学研究科に受理された博士学位論文『日本女性政策の変化と「ジェンダー・バックラッシュ」に関する歴史的研究』を、一般の読者が読みやすい形にして再構成・編集を行い、大幅な削除と加筆修正をしたものです。
筆者の博士論文は、「バックラッシュ」現象を現代日本の諸問題を解析するためのもっとも有効な問題と捉え、戦後史を遡ってその事象を歴史学的に検討したものです。これまでの日本のフェミニズム運動や男女共同参画社会基本法とその条例づくりに関わった行政担当者と研究者の努力にもかかわらず、「バックラッシュ」の反撃を許してしまったのは何故なのかが、戦後女性政策に関する先行研究では明らかになっていなかったのではないかという問題意識です(神崎智子『戦後日本女性政策史』2009年、坂東眞理子『日本の女性政策』2009年、横山文野『戦後日本の女性政策』2002年など)。戦後女性政策史をその観点で見直し、それがのちに「バックラッシュ」を呼び起こす原因を潜在的に保持していたことや「バックラッシュ」が進んだ政治的背景について検討しました。
とくに第4章「性教育バッシング」の事例は、本書の中核的な部分のひとつで、日本で行われたバックラッシュのひどさを浮き彫りにするとても重要な意義がある部分だと考えております。イニシャルで性教育バッシングのインタビューに応じて詳細に実態を語ってくださったA市のB様に、感謝を申し上げます。第5章では、「ジェンダー・バックラッシュ」勢力の言説を詳しく批判的に検討しました。
主要目次は以下のとおりです。
序章
第1章 現代日本社会の「ジェンダー・バックラッシュ」現象
第2章 「バックラッシュ」問題の視点からみる女性政策
第3章 地方自治体のジェンダー行政とバックラッシュの流れ
―4つの時期を中心に(1996~2009年)―
第4章 大阪府A市立B中学校における「性教育バッシング」の事例
第5章 「ジェンダー・バックラッシュ」勢力の言説とその思想的特性
―性と家族・伝統を中心に―
終章
本書の刊行について、二宮周平先生は「私たち研究者の役割は、過去の事実、できごとを正確に記録し次世代につなぎ、同じ過ちをしなくてすむ社会を築くことだと思います。そうは言っても、現実は厳しいのですが、石さんのご本は貴重だと思います」と応援してくださいました。伊田広行先生は、「いい本です。安倍政権の下、慰安婦問題バッシングが吹き荒れる今の日本に有用な本です。きっと一部では評価されると思います」と紹介してくださいました。外国人である私がどうして日本の「ジェンダー・バックラッシュ」に関して興味を持ち、博士論文の主要テーマにし、何を主張したかったのかについて、本書を通して多くの方に知っていただきたいです。お世話になった大勢の方に心よりお礼を申し上げます。(著者 石 楿〈そく・ひゃん〉)
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