スウェーデンから、スキー・バカンスのためにフレンチアルプスのリゾート地までやってきた4人家族。30代の夫婦と2人の子どもたちは、開放感のあるぜいたくなホテルに泊まり、日中はパウダースノーのゲレンデでスキー三昧。普段はほとんど家族と過ごすことができない多忙なビジネスマンの夫トマス(ヨハネス・バー・クンケ)にとって、それは、最高の家族サービスになるはずだった。
ところが、リゾート地へ来て2日目、とんでもないハプニングが巻き起こる。家族揃ってテラスで食事をとり始めたときのこと、人口雪崩(雪山で大きな雪崩が起きないように、定期的に小さな雪崩を起こすもの)が思いがけぬ大きさとなり、恐ろしい大雪が轟音とともにテラスに向けてなだれ落ちてきたのだ!立ちのぼる雪煙と飛びかう悲鳴の中、子どもたちをかばう妻エバ(リサ・ロブン・コングスリ)がそこで目撃したものは、何と、家族を置いて誰よりも先にテラスから逃げ出していく夫の姿だった――。
この、妻だけではなく、おそらく夫自身にとっても思いがけなかった彼の咄嗟の行動が、二人の間に残した小さな〈しこり〉。互いへの不信と不安感はやがて怒りの塊となり、雪だるま式に膨れ上がっていく・・・。何とも呆気なく、ささいなきっかけで夫婦関係が崩壊していくさまを、リューベン・オストルンド監督がシニカルに描いた、クスクス笑っちゃう「笑えないお話」だ。ビバルディの『夏』が、もうお見事~!というしかないほど効果的に使われていて、悲喜劇の予感の後に続く、泥沼のような二人のいざこざを「いや~!怖っ!」と思いながら大笑いしてしまう。
この映画のもとになったという、「命の危険が近づいた時、自分を守るために逃げるのは圧倒的に男性の方が多い」というデータ。その信ぴょう性のほどは分からないけれど、誰にだって、本能的に反応してしまう怖いものはある。ラストシーンのエバの行動だってそう。「男はいざとなったら、身を挺して愛する人を守らなくちゃ」という思い込みや期待から、女性の側も男性の側も自由になったら楽なのになぁ、と思いながら、相手に対してどんどん意固地になっていく二人を見ていた。
紹介したいエピソードは尽きないのだけれど、ここではあえて小ネタを一つだけ。わたしは、エバがホテルのラウンジで出会って、夫の愚痴を聞いてもらうことになる女性の「わたしが大切な人は、家族の他にたくさんいるのよ」という言葉にすごく共感している。エバはその女性に「それって社会では危険な考え方でしょ?」と詰め寄るけれど、閉じた夫婦関係のほうが、もっと危険なのだよ。(中村奈津子)
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