
2015AVON女性年度賞の受賞者のひとびと
化粧品会社AVONが主催する「AVON女性年度賞」は、今年で36回目。今年は上野が選考委員講評を述べました。以下はそのスピーチ原稿です。
受賞式の模様は以下のHPで見られます。
受賞者のご挨拶は毎年感動的。会場にお越しくださった方々だけが味わうのはあまりにもったいないので、多くの方と分かち合いたく、受賞式の模様を動画配信していただくようお願いしました。
AVON女性年度賞サイトはこちら
選考委員を代表して 上野千鶴子************
今年度のAVON女性大賞は、惣万佳代子さんと決定しました。惣万さんは一般には無名の方ですが、介護業界では知らない人のない有名人です。もっと早くに受賞しておられてもふしぎはなかったのに、今年審査員の肩を押したのは、昨年惣万さんが看護師の最高栄誉である国際ナイチンゲール記章の日本から2人の受賞者のうちのひとりになられたからです。日本赤十字総裁の美智子皇后から記章を授賞されました。先ほど惣万さんにお聞きしましたら、ナイチンゲール記章には副賞がない由。AVON女性年度賞には副賞がついていますから、こちらの方が値打ちがあります(笑)。
1993年、介護保険が影もかたちもない時に、惣万さんは「小規模多機能共生型」別名富山型と呼ばれる子どもからお年寄りまで、ニーズのある人は誰も断らないというデイサービスを創設されました。その後、この富山型デイサービスは、介護保険制度のもとで地域密着のモデル事業となりました。今回の国際ナイチンゲール記章の受賞は、この小規模多機能型介護事業が世界に認められたものです。海外で認められてから日本で評価されるのは情けないことですが、この機会にと年度賞をお受けいただきました。民家を使ったこの事業をやるのに、大きな施設も設備も要りません。ふつうの日本家屋に、年寄りから障害者、子どもまでが過ごし、ボランティアが出入りして風通しのよい空間を作っています。日本人が創意工夫でつくりあげた、このまったくオリジナルな事業モデルを世界が評価しました。わたしは福祉先進国と言われる北欧諸国を訪ねましたが、日本のケアの質は諸外国にくらべて決して劣らない、それどころかそれより優れているかもしれないと感じてきました。今やこの富山発小規模多機能型介護事業は、日本中に広まり、1400箇所に増えました。毎年交流会も開かれています。その事業のタネを播き、拡げ、育ててきたのも惣万さんたちです。惣万さんは共同経営者の西村和美さんの貢献を高く評価しておられますので、本賞は惣万さん、西村さん共に、富山型を支えてきた方たちへの授賞だとご理解ください。おめでとうございます。
AVON年度賞の石内都さんは女性写真家の草分け、2005年のベネチアビエンナーレ日本館の点出展者にも選ばれた、日本を代表する写真家です。女性の少ない写真という分野に早くから進出し、「ヨコスカ」「マザーズ」などの私的な写真を撮り続けた後、2008年に「ひろしま」という歴史に残る写真集をお出しになりました。広島にこだわる写真家はあまたいますが、石内さんは、被爆者の損傷した衣服をライトの中に浮かび上がらせる、そしてそのことでその衣服の主の不在と、そのひとの被爆直前までの生を浮かび上がらせるという、それまで誰も思いついたことのない手法を採用しました。それによって原爆資料館に眠っていたたくさんの衣服を目覚めさせました。日常の細部と身につけたものに視線を向けるのは、石内さんが女性だったからだと思います。昨年、同じ手法をフリーダ・カーロというメキシコの女性画家の遺品に対して採用した写真集が出ましたが、その写真撮影の過程を、石内作品に惚れ込んだ若い男性映像作家、小谷忠典さんがドキュメンタリー映画にし、それが上映されました。交通事故の後遺症で一生苦しんだフリーダの肉体とその不在を、メキシコの原色の衣服をとおしてなまなましく浮かびあがらせたこの作品も、世界的に評価を受けることでしょう。
今年のAVON年度賞は奨励賞ともいうべき新しい試みをしました。こういう顕彰はしばしば功成り名遂げた年長の方たちが中心となり、若い人は対象になりません。それで年齢クオータというか、アラフォー以下の女性を、と仁藤夢乃さんを推薦しました。女性の貧困と格差が問題になり、風俗に流れる若い女性やシングルマザーについては研究やルポがたくさんあります。JKビジネスと言われる、女子高生を食い物にする風俗もあります。若い女性には男性とは違った罠が待ち構えており、貧困の連鎖にもジェンダー差を意識したアプローチが必要です。仁藤さんは、彼女たちを論じるだけではありません。自分自身も瀬戸際に立った経験から、彼女たちに何が必要なのかを示して、必要な手をさしのべるという画期的な活動をしておられます。彼女たちの背後には、かんたんには解決しない学校や家庭の問題があります。仁藤さんのような人たちはいくらあっても足りませんが、政治家や識者があれこれ論じているあいだに、仁藤さんは目の前にある若い女性に直接向き合います。そんなアクションを彼女以外の誰がしたでしょう。仁藤さんは、教師や指導者としてではなく、当事者のひとりとして若い女性と同じ目の高さでこの問題に取り組んでいる希有な活動家です。若いうちに賞を受けるとその賞に縛られがちですが、どうぞこれからものびのびと思うところに従って活動を続けてください。あなたの変化と成長をAVONは応援しています。
AVON女性賞は2012年から復興支援賞を新設しました。今年の受賞者は高橋美加子さんです。2011年3月福島原発事故の後、高橋さんの住む地区は原発30キロ圏内に入っていたため、屋内退避を一ヶ月以上、余儀なくされました。
そんな中、会社のホームページで「南相馬からの便り」を発信し、「知ってください」というタイトルで「今まで精魂込めて培ってきた会社、社員、お客様、地域のすべてが根底から崩壊してしまいました」と訴えるリアルな文章は大きな反響を呼びました。その後、会社や宿舎を地域の復興の拠点とし、クリーニングの店舗をいち早く再開して地元に雇用の機会を創出するだけではなく、全国からのボランティアに宿を提供したりさまざまなイベントの立ち上げに協力したりするなどして、南相馬のみならず各地の多くの若者らから「南相馬の母」として慕われていらっしゃいます。被災前からも環境にやさしい天然石けんを使ったエコロジークリーニング「アクアクリーンシステム」を開発して環境に配慮してきたのに、原発事故はそういう人々の努力を一瞬にして灰燼に帰してしまいました。どんなにか悔しい思いをなさったことでしょう。私たちはフクシマを忘れない。そのために復興支援賞をつくってくださったAVONの英断にも敬意を表したいと思います。
最後に、申し上げたいことがあります。
AVON女性賞は今年で36年を迎えました。そのあいだに中断をはさみ、経営者も幾度も代わりました。それらの危機を乗り越えて、このAVON女性賞を今日まで続けてきてくださった関係者の方々の水面下のご尽力に心から感謝するとともに、AVONの経営陣の持続的な志、そしてそれを支えてきた各地のAVONレディの皆様に御礼申し上げます。先ほどAVON地域貢献賞を受賞されたパワフルな女性たちを含め、消費者との接点にあるAVONレディの地道な活動がなければ、会社もこの賞も維持できません。AVON女性賞は、いまや女性を対象にした、日本でもっとも栄誉と伝統ある賞となっています。36年前、1979年度のAVON女性大賞の最初の受賞者は市川房枝さんでした。その他に田辺聖子さん、樋口恵子さん、石牟礼道子さんなどが受賞し、今年はその列に惣万佳代子さんが加わりました。すばらしい女性たちのリストです。ですが、伝統は維持するにかたく、こわれるにもろいものです。本賞をこれからも続けていくために、会場にお集まりくださいました皆様のご協力を、今後とも心からお願い申し上げます。
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