3月末に刊行された拙著『コンサートという文化装置――交響曲とオペラのヨーロッパ近代』の紹介です。
本書は19世紀前半の音楽文化史となりますが、主な内容としては、現在のコンサート・プログラムがいかにして作られたのか、クラシック音楽はなぜ過去の音楽の再演を基本とするのか、クラシック音楽と知はどのように結びついたのか、といった問題を論じています。
ジェンダーに関わる部分では、当時のオペラ上演事情を扱う中で、声域と歌手の問題に触れています。18世紀までのオペラのスーパースターはカストラート(去勢歌手=少年の高音を維持する歌手)でしたが、その庇護者たる貴族社会が衰退し、市民社会へと移行する中で、オペラのブルジョワ化と声のジェンダー化が進みました。1820年代まではその過渡期にあたり、この時期の観衆は、ある夜には主役の男性キャラクターをカストラートの声で聴き、また別の夜には女声のコントラルト(男装の女性歌手が低い声で演じる)で聴き、また同じ役をテノールの声でも聴きました。1830年代になると、男性の主役はテノール、女性の主役はソプラノという現在では「あたりまえの」声域の固定化がほぼできあがります。
筆者は別の論文で宝塚歌劇の男役の声の低音化という問題を扱っていますが(拙著「女声の低音と舞台上のジェンダー――オペラにおけるズボン役との比較から見た宝塚歌劇の男役」『ポピュラー音楽研究』(2014)Vol.8)、それと合わせて、声のジェンダーイメージの形成に関心のある方にお手に取って頂ければと思います。(著者:宮本直美)
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