
唐突ですが、ここで「掛詞=かけことば」のおさらいをしておきたいと思います。短歌を作られる方、百人一首のような和歌を好まれる方は何をいまさらと思われるでしょうがちょっと我慢しておつきあいください。たとえば小野小町の作である次の和歌です。
花の色はうつりにけりないたづらに
わが身世にふるながめせしまに
この和歌の「ふる」は「ふる=経(ふ)る」と「ふる=降る」、と「ながめ」は「ながめ=長雨」と「ながめ=眺め」とそれぞれ同じ音で2つの意味を持たせたかけことばです。こうして1つの言葉に複数の意味のある言葉を使うことで、複雑な意味を表現したいというために生み出された技法です。
さて、こんな優雅で思い入れ深い、先人たちの生み出したテクニックを、まったくひどい差別語として使った県会議員が現れました。自民党の小島健一・神奈川県議です。
毎日新聞は
沖縄基地反対派を「きちがい」 という見出しで以下のように伝えました。
沖縄の本土復帰記念集会に出席し、あいさつで「沖縄の基地の周りには、基地反対だとかオスプレイ反対だとか毎日のように騒いでいる人たちがいる。基地の外にいる方ということで『基地外』の方と私は呼んでいる」と述べた。(毎日新聞2016年5月25日)
朝日新聞も
沖縄の基地反対運動「基地外(きちがい)の方」 と見出しを立て同様の記事をのせています。そして 次のように続けています。
小島氏は朝日新聞の取材に発言を認め、「差別的な意図はない。イントネーションも(正しく)『基地外』と言っている」と話している。(2016年5月25日)
この記事の小島県議の発言は、確信犯としての悪意から出たものです。自分の主義主張に反する人に対しては、どんなにおとしめてもいい、何を言っても許されるという、おごりに満ちています。県議の本心は、基地に反対したりオスプレイに反対する人は「きちがい」なんだと言いたいところにあります。でもそれを言ったら政治家として叩かれて政治生命が危なくなるから言えない。そこで同じ音の「かけことば」を考えて「基地外」という語を持ち出したわけです。
「基地外」という語自身は別に悪くないことばです。基地の内か外かという場所をさすだけなら問題はないし、「基地内」との対比でなら使われることもあるでしょう。「基地内では英語だが、基地外では日本語を使う」というように。
しかし、小島県議は基地反対運動をしている人のことを差別的に言いたくて「きちがい」という差別語と同音の語を探し出したのです。その意図は見え見えです。しかもさらに許せないのは、敬意などまるで抱いていないのに「『基地外』の方」と敬語まで使っていることです。
まさに確信犯です。あきらかに差別表現です。こうした発言をそのまま紹介するだけで、批判も抗議もしていない新聞も歯がゆいです。
改めて言うまでもないことですが、現在の社会では差別語は使わないことになっています。人間を尊重する、人権を守るという最低の常識から出発しています。同時に差別語だけでなく差別的なことばや表現も使わないようにしようというのも社会常識です。
小島発言について、その後は新聞にも取り上げられていません。これではおごりたかぶった議員をますますいい気にさせ、増長させるだけです。差別発言は許さないとメディアはもっと毅然とした態度で報道し続けてほしいです。
蛇足ですが小野小町の和歌の現代語訳をつけておきます。
桜の花の色は、もう色あせてしまった、春の長雨が降りつづき、わたしの容貌が衰えたことや世の中のことで思い悩んでいるうちに。
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