ミニコミ誌を研究することになったきっかけは、大学生の頃、卒論のテーマを構想するために大学図書館で調べ物をしていた際に、ウーマンリブ関係のミニコミを収録した『資料ウーマン・リブ史』(全3巻)と出会ったことです。リブの女たちの熱気が伝わってくるような分厚い資料集をひもときながら、リブの思想と着眼点の先見性と、運動の中で提起された問題がまったく古びていないことに、大学でジェンダー論を勉強する世代だった私は衝撃を受けました。
同じ時期、私の出身地である東北の女性運動の様子が知りたいとも思っていました。そんなとき、リブの代表的雑誌『女・エロス』の中に、岩手県で活動する石川純子さんという女性のエッセイを見つけました。インターネットを利用した調査によって、石川純子さんは小原麗子さんの麗ら舎読書会で活動しており、『別冊・おなご』誌上で聞き書きなどを発表していることが分かりました。幸運なことに、その後すぐに小原麗子さんと石川純子さんに直接お会いすることができました。そして麗ら舎読書会に参加しながら、ミニコミの調査やインタビューなどを行い、いくつかの論文を書いてきました。
WANのミニコミ図書館に参加するようになったのも、麗ら舎読書会に出会ったことで書いたある論文がきっかけでした。
振り返ってみると、ミニコミとインターネットがつないでくれた縁でした。不思議な女縁です。
半世紀以上に渡って岩手でミニコミを発行し続けている小原麗子さんは、若い頃を振り返り、書くということによってその時々の“自分の心境を伝えたい”という思いはあっても、“書き残しておく”という意識は薄かった、とおっしゃっていました。ミニコミ図書館に収録されている多くのミニコミの作者たちも同じ思いだったかもしれません。しかし小原さんは次第に、“書いたものしか残らない”という事実を重く受け止めるようになったとも話してくれました。
ミニコミの誌面をつうじて時空を超えて届いた、私の祖母や母の世代の女性たちの「肉声」は、「女たちの経験=遺産」(三木草子「あとがき」『資料ウーマン・リブ史』3巻)です。ことに散逸しがちな草の根の女性運動の資料がミニコミ図書館という保管の場を得たこと自体が重要な価値を持つものですが、ミニコミを収集し、Web上に保管することだけで本図書館の役割が終わってはいけない、とも思います。アーカイブは使われなければ意味がないのです。ぜひ幅広い人々にミニコミを読んでほしい、そして特に若い世代の研究者の方々にミニコミ図書館を活用して新しい研究を展開してもらえたらと思います。
追記(2017/9/29):
博士論文をもとにした著書『〈化外〉(けがい)のフェミニズム――岩手・麗ら舎の〈おなご〉たち』(仮題)をドメス出版より近日刊行予定です。
詳細が決まり次第、本欄でお知らせいたします。
2016.06.02 Thu
カテゴリー:エッセイ・ミニコミと私