私は子どものころから、フワフワした食パンのやわらかな口当たりと甘味がたまらなく好きだった。 フルタイムで働いていた母に代わって、毎日の買い物は、小学1年生の時から私の仕事だった。買い物帰り、商店街のパン屋さんから、よく食パンの耳ももらっていた。
「このパンの耳、犬に食べさせているの?」 と女店主からたずねられて、返事に困ったことをよく覚えている。 犬ではなくて、自分たちが食べているというのが恥ずかしかった。そんなことを言えば、食べていくのが精いっぱいの家の子だ、と思われる気がしたからだ。 私がパンの耳をもらってくると、母が機嫌がよくなるのが、うれしくてせっせと通った。

 朝食といえばトーストで、マーガリンをつけて食べる食習慣は、大人になってからも続いていた。だが、「乳がん」を機に、日々の食べ物について、しっかり考えるようになってから一変した。
 マーガリンをやめ、今では白い色をしたパンではなく、できるだけ全粒紛やライ麦、雑穀が使われている茶色いパンを買うようしている。 製造過程にバターやマーガリンがふんだんに使われ、工場で作られている「白いパン」はほとんど買わなくなり、もっぱら自宅から歩いて行ける、手作りドイツパンの店に行っている。
 ドイツパンはライ麦や雑穀を多く使うことから、食物繊維やミネラルが多く含まれ、見るからに食べ応えがある。 この店のオーナーは、本場のドイツで10年間、夫婦で修行を積み、国産小麦粉にこだわり、ナッツやドライフルーツなどの材料も厳選したものを使っている。 パンの深い味わいもさることながら、ご夫妻の暖かい人柄に魅かれ、私はよく通うようになった。
 ドイツパンは何もつけずに、そのまま食べても美味しいが、エキストラバージンのオリーブオイルを少したらすと、さらに風味が増す。 何かつけるときは、練りゴマ(白、黒どちらでもよい)にきなこを混ぜたペーストを塗ることもある。甘味が欲しいときは、そこにはちみつやメープルシロップを加えている。 そうすることで、バターやマーガリンを使わなくても、深いコクと味わいを楽しめるのだ。熟したバナナをスライスして、トッピングし、シナモンをふって、デザートのようにして食べることもある。

 スペインに調査研究のため長期滞在していた時期は、一般的な日本のパンとの違いを知る機会にもなった。毎朝、パン屋さんで買う、焼き立てのパンは翌日にはもう石のように固くなってしまう。 その固いパンを無駄にしないために、美味しく食べられるよう、生活の知恵から生まれたのが「パン・コン・トマテ」だ。 カチカチのバケットをやっとの思いでスライスし、熟したトマトとニンニクをこすりつけ、オリーブオイルをたらして食べる。ワインとの相性も抜群にいい。
 日本で買うパンが、翌日まで柔らかいのは、乳化剤などの添加物がふんだんに使われているからで、砂糖も加えられていることが多い。 以前、書いたように、「乳がんになる女性の多くはパンを食べている」と指摘した幕内秀夫氏の著作を読んだとき、私は自分のことをいわれているようでドキリとしたが、パンをまったく食べない生活は寂しすぎる。 要は、どんなパンを食べればよいのか、そしてパンをどのように食べるかを考えればいいのである。パンを食べるだけで、がんになってしまうのなら、世界中のほとんどのひとが、がんになってもおかしくない。
 ただ、小麦に含まれるグルテンが腸内環境を乱すという指摘もあり、最近はグルテンフリーの食品が日本でも増えている。個人の体質によって、からだの反応が違うらしく、「グルテン不耐症・過敏症」の場合は、避けたほうが体調がよくなるという報告がされている。興味がある人は一度、グルテンフリーを試してみる価値はありそうだ。 いずれにしても幕内氏は、過度に西洋化してしまった日本女性の食生活に対して、警告の意味を込め、読者の注目を引くタイトルをつけたのだろう。

病気を防ぐ食生活の共通点とは
 それでもたまに、私はホテルのレストランや友人の家で、白いパンや、砂糖がたっぷりと入ったお菓子を食べることがある。その時は、ありがたく食べさせていただくことにしている。 作ってくれたひとの厚意を素直に受け取りたい気持ちと、世界では飢餓で苦しみ、食べたくても食べられないひとたちがたくさんいるのに、こうして自分は食べられることに感謝したいからだ。
 幕内氏の書籍以外にも、がん予防を目的に書かれたものは数多くあるが、私は「済陽式食事療法」も参考にしている。 がんを克服するための食生活を指導してきた済陽氏は、そのポイントを、次のようにあげている。

② 塩分は1日五グラム未満に抑える
② 調理の場合には減塩塩、減塩しょう油をほんの少し風味づけに使う。刺し身などは減塩しょう油を酢やレモン汁で割って使う。あとはダシを効かせたり、香辛料や香味野菜を活用する
③ 加工品に含まれる塩分にも要注意
④ 週2~3回は玄米や五穀米のご飯にする(玄米のぬかや胚芽には抗がん成分やビタミンB群が豊富に含まれる)
⑤ 毎朝、野菜や果物の生ジュースを飲む

 玄米や五穀米、また海藻類やキノコ類といった縄文時代に近い食事内容が、がんの予防・抑制に非常に有効とする同氏の考え方は、「マクロビオテックス」の考え方と共通する。 また、人はもともと草食動物であることから、食事療法で最も重要であるのは「野菜・果物の大量摂取」という考え方は、前回に書いた「ナチュラル・ハイジーン」の考え方と通じる。塩分の取り過ぎに注する点も同じだ。
 ただし「ナチュラル・ハイジーン」が、生野菜を食べることを特に推奨しているのは、野菜や果物に含まれている酵素をより多く取り入れるためだ。健康上のさまざまなトラブルは、からだに水分が不足しているために老廃物が蓄積し、速やかに排泄できない状態であるからだと考えられている。 そうならないために、毎日の食事の70%は水分の多い食事をすることがポイントで、結果、老廃物を洗い流すことができ、スリムで健康なからだでいられるとしている。 私たちが住む地球も70%が水、残りの30%が陸地であることから、地球も人間も7:3という同じ割合の水を必要とする考え方は、どこか神秘的だ。
 そもそも人間は「自らの浄化力」と「自らの治癒力」、そして「自らの機能維持力」を持つものであり、それらをどのように最大限に発揮させるのか、そのために、いかに食べ物と食べ方に留意するべきかをこうした専門家は教えてくれている。

書の作品を随時アップしているFacebook のページより~ Setsuko Nakamura