〈ハイブリッドな親子〉の社会学: 血縁・家族へのこだわりを解きほぐす

著者:野辺 陽子

青弓社( 2016-10-07 )

血縁・家族へのこだわりを解きほぐす

代理出産、特別養子縁組、里親、児童養護施設。今、ホットなトピックを集めた本だ。
もう、近代家族はいやだ!近代家族は作れない!近代家族は作りたくない!

近代家族とは、われわれが普段は特に意識せずに「普通」の家族だと思っている「お父さん、お母さんがいて、血のつながった子どもと一つ屋根の下で仲良く暮らしている」ような家族のことだ。

このような血縁と婚姻で結ばれた近代家族から外れたところで生きる人たちが、「多様な家族」「新しい家族」として注目を浴びている。「もっと自由に“家族”をつくりたい!」と訴える人たちは、近代家族ではない家族を、近代家族のオルタナティブとしてとらえ、期待をこめて、その動向を注視してきた。
近代家族への反発から、「多様な家族」「新しい家族」に注目が集まるにつれ、今まで社会の中で不可視可されて、取り上げられることのなかった当事者たちの生き方が紹介されている。具体的には、第三者が関わる生殖補助医療を利用するカップル(それは異性カップルのこともあれば、同性カップルのこともある)、子連れ再婚家族、養子縁組家族、里子を育てる家族、セクシュアルマイノリティの家族などだ。これらの当事者たちは、以前は語られることがなく、実態が知られることがほとんどなかった。しかし、現在では、新聞、テレビなどのメディア、当事者グループのサイトやSNS、また専門家による研究などによって、「多様な家族」「新しい家族」に対する記述が、同時多発的に生産されている。そこでは、当事者たちが明るく・たくましく生きている姿が肯定的に紹介されたり、一方で、当事者たちが差別や不利益を受けて苦しむ姿が紹介されたりしている。

これらの事例の蓄積によって、私たちは当事者の実態について多くを知ることができたけれども、そろそろ、事例の紹介にとどまらない、個々の事例を貫くような、当事者の葛藤を生み出している社会構造を見通すような、もう一歩踏み込んだ分析がほしい頃ではないだろうか。

そのため、最近では「多様な家族」「新しい家族」とされる個々の事例を扱うのではなく、それらを横断的に扱う動きが見られている。なぜ、横断的に扱うのか。その理由のひとつは、各事例を貫くような、共通する課題があるならば、さまざまな当事者たちが連帯してその課題と戦えるからだ。

もうひとつの理由は、それぞれの事例は隣接していて、実は関連しあっているため、ある事例について理解したければ、隣接した他の事例についても知らなければ、その事例が精確に理解できないからだ。
例えば、養子縁組を例に取るなら、養子縁組のあり方は、類似する制度である里親制度から影響を受けており、また、養親となるカップルは不妊カップルが多いため、不妊治療の動向からも影響をうけている。他方で、養子候補者となる子どもは、児童養護施設に入所していたり、予期せぬ妊娠によって生まれたりする。このように各事例は関連しあっているため、最近では「多様な家族」「新しい家族」とされる事例を横断的・包括的に扱う動きがみられるのだ。

このような流れの中、本書は代理出産、特別養子縁組、里親、児童養護施設を扱っているが、とはいえ、本書は単なる事例集ではない。事例集なら、すでに優れたルポルタージュ、当事者の手記、メディアの報道などがある。本書は、事例を串刺して、近代家族には当てはまらない親子や子育てを見通す視点を提示し、当事者の葛藤を生み出している社会構造を理解することを目指している。

事例を串刺しするために、本書が取った戦略が、書名にもなっている「ハイブリッド」というコンセプトである。「ハイブリッド」は、もともと「雑種、混成物」といった意味であり、工学や技術の分野では、二種類以上の要素を組み合わせた製品についてこの言葉を使う。本書では、生みの親とそれ以外の「第三者」(それは「育ての親」だったり、ドナーだったり、保育者だったりする)が、子どもを結節点として、直接的あるいは間接的に組み合わせる場合に、どういうことが生じるのかに注目するため、生みの親以外の担い手が出産・子育てに関わる親子関係を「ハイブリッドな親子関係」と名づけた。そして、さまざまな「ハイブリッドな親子関係」で、血縁や家族がどのように立ち現れてくるのかを描き出すことを試みている。

第1章「代理出産における親子・血縁」と第2章「特別養子制度の立法過程からみる親子観」は主に親子関係における血縁の意味を問い直し、第3章「『家族』のリスクと里親養育」と第4章「『施設養護』での育児規範の『理想型の上昇』」は主に子育てにおける家族の意味を問い直している。そして、序章「『育児の社会化』を再構想する」は「実子主義」と「家族主義」という軸で、終章「〈ハイブリッド〉性からみる『ハイブリッドな親子』のゆくえ」は「血縁/非血縁」と「家族/非家族」という軸で、本書で扱った各事例を横断的に整理し、当事者の葛藤を生み出している社会構造を考察している。


「ハイブリッド」というコンセプトから事例を串刺しして考察していることが本書の売りのひとつであるが、とはいえ、本書で扱っている個々の事例(代理出産、特別養子制度、里親、児童養護施設)の章も今までの語られ方とは異なる角度から書かれており、読者にとって新しい発見にあふれているはずだ。ぜひ、本書を手にとって読んでほしい。
(共著者 野辺陽子)