監督も知らない、役者も知らない。  
ひと足先に試写会で、観て感じたまんまをいけしゃぁしゃぁと映画評。   
筆/さそ りさ 
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ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち

ヒトラー率いるナチスのユダヤ人への迫害は、世界史における醜悪な汚点のひとつである。
非人道的な行為による犠牲は、当然のように子どもにも及ぶ。
第二次世界大戦の前夜、逼迫した状況下で、せめてユダヤ人の子どもたちだけでも安全な国へ疎開させようという活動が活発化していた。
活動は、チェコスロバキアでもニコラス(29歳、イギリス人)を中心に1938年に始められた。
ただ、公的な支援があるわけではない。安全な国といえども、彼らの行動に世界は冷たく多くの国が受け入れを拒否。
唯一イギリスだけが厳しい条件を出しつつも了承。救出活動は直ちに開始された。
ニコラスは、イギリスで里親を探し、書類を偽造してまでも急ぎ子どもたちを列車に乗せてプラハから出国させる。
翌年3月14日から8月2日までの間、救われたのは669人。
さらに250人が次を待っていたが、9月1日のドイツ軍のポーランド侵攻による大戦勃発により活動は余儀なく中止され、
結果、ほとんどの子どもたちは強制収容所で命を落とした。
子どもたちを送り出した親たちもホロコーストで殺害される。

ニコラスは、一連の活動をなぜか誰にも語らずにいた。
1988年のある日、妻が屋根裏部屋からほこりをかぶった一冊のスクラップブックを見つけた。
そこには、50年前に出国させた子どもたちの写真や名前、イギリスでの引取先などが細かに記載されていた。
このことをキッカケに、当時のことが世間に知られることとなり、79歳のニコラスと子どもたちとの再会が実現する。
子どもたちは、世界各地で活躍し、受けた善意を次の世代へつなげようと行動し語り継いでいる。

再会は何よりも感動的である。
が、観る者としては感動に涙しているわけにはいかない。
現実、いままさに戦争で犠牲になっている子どもたちが増えている事実を見据えなければ、この作品を観る価値がうすれてしまう。
ヒトラーならずとも、彼と同様に戦争を引き起こしている者がいるのである。

そこで、まず政治家に観てほしいものだ。
戦争をしている国、駆けつけ警護などこれから戦争に加担することを意図する国の政治家全員に観て欲しい。
どんなに多忙を装うとも、101分の時間は都合できるだろう。
観て、子どもたちを犠牲にすることで未来を壊していることに気づいて欲しい。

2016.10.17試写

2016年11月26日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国公開