監督も知らない、役者も知らない。  
ひと足先に試写会で、観て感じたまんまをいけしゃぁしゃぁと映画評。   
筆/さそ りさ 
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果たして、ひとりぼっちで幸せなのだろうか。孤立あるのみだと思うのだが。

主人公:オーヴェ、59歳、妻に先立たれて独り暮らし。45年も勤めた鉄道局を突然クビになり寂しさが募る。
かつては自治会の会長を担い、共に活動した友もいたが、いまでは、気難しく融通が利かない頑固者、変人として疎まれている。
そうしたオーヴェは、妻:ソーニャの墓石に、「もうすぐ、君のそばに行くよ」と話しかけ、家に帰るやいなや、首にロープをかけ行為に移す。
と、外が騒がしい。隣りに越して来た家族のクルマが家の郵便箱を壊してしまう。
首吊りなどやっている場合じゃない。彼は、勢いよく飛び出し怒鳴りつける。

さあ、ここからが本題となる。

その後、オーヴェは首吊りを諦めたわけではない。幾度もトライするが、いざというタイミングで隣人に邪魔されてしまう。
それでも「もうすぐそっちへ行くよ」と覚悟して踏み台を蹴飛ばすも、こともあろうにロープが切れてしまう。
彼は、買った店に行き、ロープの品質が悪いとクレームをつける。この件に限らず、オーヴェは、世間の不条理が許せないのだ。
対して店員は、「何に使われました?」と。

滑稽な行為への失笑ではなく、憂えに包まれた笑いが全体にまぶされていているのがこの作品を特長づけている。
作品は、スウェーデン男性の悲哀を綴るものだが、こうした状況は、身近な“男・定年”の実情と見事に重なる。
“男・定年”にとって、ひとりぼっちへの原因は、妻の死であり、友との仲たがいがそれに続く。
そして、人に対してこころを開く「自己開示性」が低いために引きこもり、結果、ますます孤立し、最悪は孤独死に至るケースも少なくない。

オーヴェにとっても同様のパターンであるが、越して来た隣人は、幸せをもたらす家族であった。
隣人とのもめ事は、互いの思いを伝える出来事、理解へのきっかけとなり、彼の頑なこころは開示され運命を変えた事件について語り、穏やかな思いをとり戻していく。
この隣人あってこその「幸せなひとりぼっち」でいられたわけだ、オーヴェは。

物語の成り行きは、“男・定年”これからの人生を考えるうえでのヒントになるはず。
ものの考え方、妻や友との付き合い方、人を理解すること・理解されることの素晴らしさ……云々
末永く幸せを求めたい“男・定年”がいたら、この作品を観るように誘導してみるといい。。
幸せをもたらす家族が隣りに越してくる確率は究めて低いわけ、だから。

2016.11.14試写

2016年12月17日(土)新宿シネマカリテ&ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

配給:アンプラグド
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