ニュースを読んで最初に浮かんだ疑問は、なぜ地方女子を対象にした家賃補助なのか?(女子全員対象ではなく、奨学金でもなく?)だった。ニュース記事ではよく分からず、「東大としてその集団群を増やしたい」という学長メッセージでもあるのかと思って大学HPを見にいくも、ない。よくよく探すと、このリリースは入学進学希望者向けページの「学生生活」のコーナーに載っていて、実質チラシ1枚があるだけだ。「物件を100室程度押さえており、自宅が遠距離の女子学生に補助付きで貸し出します」という内容である。

要するに「借り上げ寮」設置しましたということ。マスコミが取り上げて悪いことはないが、ニュースバリューとして低いのではないか。世の中の「女性応援!」の風潮と「不当な優遇じゃないよ」の間をうまくついてるような、おためごかしのショボい施策のような…とのなんとも言えない感想に変わる。ただ、距離と性別で分類するならやはり一番東大が遠いだろう「地方女子」の、悩める人に届けばいいなとも私は思う。

この施策は「差別では」という反応も多いらしい。こうした「女性応援」施策への賛否は、女子にとってはより東大が遠いと感じるか否かも分かれ道ではないか。

まずは事実確認として現在の東大の男女比の数字を見る。いわゆる1年生、教養学部28年度進学者で2,531対615。女子は全体で約2割。学部別では文系学部で法307人対91人、文217対95、経285対61、差が少ないのは教養120対65や教育67対35、一番差があるのは理273対33や、工890対115。法学部で2割そこそこ、一般に女子比率が高いイメージのある文学部でも3割…。これを「異様に差がある」と見るか、「結局は脳が違う(男子が優秀だ)」「趣味嗜好の問題(女子は受験にやる気がない)」等と見るかはとりあえず主観だろうが、私は「異様に差がある残念な数字」と見る。

何がこの差を作っているのか。たしかに「女に学問は要らない」までの発言をする人は随分減っていて、特に政治家や教育関係者が言うとマスコミに叩かれるご時世にはなっている。今どき教育に性差などない、優秀で望むなら自由に堂々と東大に行けば良い(だからこんな差別的施策は不要)と言う人もいるだろう。また、進路は性別だけが決定要因ではない。望む進路に対して恵まれた環境の人もそうではない人も性別に関係なくいる。

しかしなお、性を理由に各集団に、時にふんわりと時にきっちりと「網」が張られて、ある方向への誘導がある。それが数字に表れているのが、東大の男女割合だと私は思う。

例えば15年ほど前の私の体験では、迷いなく「ここを志望しろ」というレベルなら、少なくとも学校の進路指導上、男女の別は感じられなかった。しかし迷う場合には?「せっかくだから挑戦しろ!」か「浪人しなくていいように受けたらどうだ」か、いずれが教師から、周囲から届くか。相応に効くこの言葉。「女の子だから浪人しなくていいように…」とは、私の学校で担任が言っていた。当時は教師が何てことを言うのかと憤っていたが、教師は正義や信条ではなく生徒の人生を考えねばならないのも、今は一応分かる(だから余計に効くのだが)。

この「網」を是正すべきとして、どういう手段がいいのかについては、いろんな意見があると思う。「網」に対してどう効くのか効かないのかという議論は建設的だ。しかし「網」を見ること抜きに、単に差別的な施策だ、または「女性応援」だからよかろうという話には、内心うんざりする。

また、これは東大だけの問題ではない。正直なところ東大に1、2割女子が増えようと、私にとって何かが変わるかといえば別に何もない。ただ、いろんな場面で「やっぱり男高女低がいい」とどこかで思っている、そういうことになっている社会の象徴として気になる数字だ。

余談ながら、こうなるといろんな大学の男女比が気になってくる。年に何回か、高校別大学合格ランキングに血道を上げるビジネス誌など、ついででもいいからこういう分析をしないものか。

■ 小澤さち子 ■