ハンセン病療養所に生きた女たち

著者:福西 征子

昭和堂( 2016-06-30 )

本書は、昭和五十三年から国立ハンセン病療養所に勤務し、三十数年間にわたって入所者たちの療養生活の傍らにあった女性医師によるインタビュー集です。インタビューの対象は今も療養所に入所している女性たちで、話題は彼女たちの生い立ちから強制隔離に至った経緯、療養所での生活や人間関係、結婚、故郷の家族との関係、そして晩年と、一生涯に及んでいます。

ハンセン病療養所といえば、長年にわたる入所者自らによる予防法闘争、および予防法廃止(平成八年)と熊本地裁判決(平成十三年)以降の情報発信は、目覚ましいものがありました。しかし、そこで女性が表舞台に出ることは全くと言ってよいほどありませんでした。

著者が実際に接した女性たちも、会合では目立たないように隅に座り、たとえ意見を求められても出しゃばらないように気を遣い、つつましさを繕っていました。この大事な時に、なぜ女性たちは黙り込んでいるのか、なぜ声を上げようとしいのか。男たちのなかで身体をはって生きてきた著者にとって、彼女たちの態度は歯がゆくてならなかったのではないでしょうか。

本書は、これまで男性たちの影に隠れるように生きてきた女性たちに光を当て、彼女たちの語りから療養所におけるジェンダーの問題に迫ります。
私が本書を通して感じたのは、ハンセン病療養所の女性たちといえども、私たちと同じく、みずみずしい感性を持って生きぬいてきたのだという、当たり前すぎるほど当たり前のことでした。彼女たち五人の語りは、いわば「五人五色」で、療養所における男社会に対して、特に抵抗を感じない人から、生きにくさを感じる人まで、その度合いはさまざまです。ジェンダー問題に強い問題意識を抱く読者のなかには物足りなさを感じる人もいるかもしれませんが、しかし、そんな読者にこそ、語るのも辛い過去、文字化するのも躊躇われるような過去が、行間に滲んでいるのを感じ取ってほしいと思います。

(編集者 松井久見子)

『女性情報』2016年10月号(パド・ウィメンズ・オフィス)に掲載したものを再掲しました