2017年5月22日
親子断絶防止法が、議員立法で成立するかもしれません。
これは主に、別居や離婚後に別居親と子どもが面会交流を通じて継続的な関係を維持す
べきだ、とする法律です。
法律案によれば、別居の際には、その後の別居親と子どもとの面会交流の取り決めが必
要であり、仮にこれが成立したら、DVや虐待を受けている人たちが、暴力加害者のもと
から逃げることができなくなる可能性があります。
家庭裁判所を通さない行政判断をさせる枠組みになっているため、自治体が委縮し、DV
や虐待から避難して必要な行政サービスを受けるということもできなくなる可能性もあ
ります。また、一律に継続的な関係維持が子どもの利益だとしながら、個々の子どもの意思を尊
重する仕組みは具体的にありません。
さらに、子どもの世話をする親に、面会交流を実施する一切の責任を負わせる一方、別居親には面会の内容や質を含め何の義務も責任もありません。
子どもの生存権に直結する養育費については、ほとんど触れられていません。 このように大きな疑問のある法案を検討してみました。
親子断絶防止法案(父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案)インナー議員会議修正案
第1条 (目的)
この法律は、父母の離婚等(未成年の子(以下単に「子」という。)を有する父母が離婚をすること又は子を有する父母が婚姻中に別居し、父母の一方が当該子を監護することができなくなることをいう。以下同じ。)の後においても子が父又は母との面会及びその他の交流を通じて父母と親子 としての継続的な関係(以下単に「継続的な関係」という。)を持つことができるよう、父母の離婚 等の後における子と父母との継続的な関係の維持等(継続的な関係の維持、増進及び回復をいう。以下同じ。)に関し、基本理念及びその実現を図るために必要な事項を定めること等により、父母の離 婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進を図り、もって子の利益に資することを 目的とする。
・別居親と継続的に関係を維持すること等は、もちろん子ども(以下「子」を「子ども」といいかえます)のためになる場合もあります。しかし、有害な場合もあります。それなのにどのような場合であっても、個別の事情に配慮することなく一律に、継続的な関係の「維持、増進、回復」を促進することは、かえって子どもの利益にならないだけではなく、むしろ子どもの利益を害する場合があるのではないでしょうか。
・父母が離婚等をする前から継続的な関係がなかった場合や、継続的な関係はあったけれども、その関係が「子どもに有害な関係」であった場合などに、維持すべき関係とはどのようなものでしょうか。このような場合にも、親と継続的な関係を維持することが、子どもの利益になると考える根拠は、どのようなものでしょうか。
・家庭裁判所では、現在、別居親から面会交流が申立てられれば、「原則として面会交流をさせる方針」をとっています。監護親がDV・虐待等があったと主張しても、本当に一部の例外があるくらいで、原則として面会交流をさせて、具体的な面会の方法を調整する程度の配慮しかありません。このような現状があるなかで、いま改めて、このような法律を成立させる必要性は、あるのでしょうか。
第2条 (基本理念)
1 父母の離婚等の後においても子が父母と継続的な関係を持つことについては、児童の権利に関 する条約第九条第三項の規定を踏まえ、それが原則として子の最善の利益に資するものであるとともに、父母がその実現についての責任を有するという基本的認識の下に、その実現が図られなければならない。
・子どもの権利条約は、別居親との接触交流を含む父母からの不分離(9条3項)だけではなく、父母の地位や出生で差別されない権利(2条)、生命の権利・生存と発達の確保(6条)、意見表明権(12条)、虐待からの保護(19条)、障害児童の尊厳の権利(23条)、健康享受の権利(24条)、生活水準の権利(27条)、教育の権利(28条)、休息文化的生活の権利(31条)、性的搾取からの保護(34条)など、親子関係においても確保されなくてはならない多くの権利を定めています。そして、子どもに関するすべての措置をとる際に、それらすべてを総合してその子の利益が最大になるよう調整すべきことを要請しています(3条)。
・この法案は、「別居親との接触交流を含む父母からの不分離」である9条3項の確保が「原則として子の最善の利益」であるとしています。そのときに、別居親との不分離だけを、先に挙げたほかの重要な子どもの利益(例えば、生命や生存、健康や虐待を受けないという利益)に優先させてしまっています。しかし、別居親との分離が子どもの最善の利益となる場合は、多数あります。例えば、同居する父母による虐待などであり、これも頻発しています。にもかかわらず、父母からの不分離だけを優先させている根拠はどのようなものでしょうか。
・別居親との関係のありかたは、その子どもや親ごとに、それぞれ違います。それなのに、一律に親子の関係維持が子どもの利益であると判断する根拠は、どのようなものでしょうか。
2 父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等に当たっては、子にその意思を表明する機会を確保するよう努め、子の年齢及び発達の程度に応じてその意思を考慮するとともに、父母 が相互に相手の人格を尊重しつつ豊かな愛情をもって子に接し、いやしくも子の健全な成長及び人格 の形成が阻害されることのないようにしなければならない。
2項前段
・父母の離婚等のあとにおける継続的な関係の維持等にあたって、「子にその意見を表明する機会」を「確保する」とするのではなく、「確保するよう努める」としているのは、どうしてですか。
・ 離婚等の後の関係の維持等を考えるときに、関係するすべての子どもについて意見表明の機会を「確保するよう努める」のですか。
・「確保するよう努める」とは、誰が、いつ、どのように子どもの意見の聴取を行うのか、具体的にわかりません。例えば、どのような専門的知識・資格・経験のあるひとが、おこなうのでしょう。どのような場合であれば、「確保するよう努め(た)」ということになるのですか。
・「子の年齢および発達の程度に応じてその意思を考慮する」とありますが、「子の年齢および発達の程度に応じて」とは、具体的にはどういうことでしょうか。「その意思を考慮する」とは、具体的にどういうことですか。
なお、スウェーデンでは、「遅くとも6歳になれば、子とその意向について話すことが普通にできることがわかっている。それゆえ、子どもは、常に聴取される機会を持ち、その意向が考慮に入れられなければならない」(2005年SOU43)とされています。また、世界乳幼児精神保健学会は、2014年に乳幼児の権利に関する意見を表明し、その中で、「乳幼児(注:生まれてから3歳まで)にはユニークな非言語的表現手段があり、感じ、親密で安全な関係を作り、そして環境を探検して学習する能力がある」こと、「乳幼児は最も重要な主要な養育者との関係性を、継続的な愛着の尊重と保護をもって認識され理解される権利を有する」ことなどを明らかにしています。これらを参考にして、同じように考えられているのでしょうか。
・この法案には、子どもの意見表明の機会を確保し、それを結果に反映させるための、具体的な規定がありません。どうしてでしょうか。
2項後段
・「父母が相互に相手の人格を尊重しつつ豊かな愛情をもって子に接し、いやしくも子の健全な成長及び人格 の形成が阻害されることのないようにしなければならない」といいますが、父母に良好な態度や行動をとるよう訓示したら父母の態度や行動が改まるということでしょうか。訓示してもなお、父母の争いが多かれ少なかれ続く場合はどうなるのですか。
・離婚等のあとも父母の争いが見込まれる場合には、そもそも争いが続くことを前提に子と別居親との関係がどうあるかを検討することが必要です。それが、子どもの健康な発達を守ることになると思うのですが、こういった訓示で大丈夫だと判断している根拠は何ですか。
3 父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に当たっては、児童虐待の防 止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)及び配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に 関する法律(平成十三年法律第三十一号)の趣旨に反することとならないよう留意しなければならない。
・子どもと父母との継続的な関係の維持等の促進に当たって、児童虐待防止法及びDV防止法の趣旨に反しないようにと、述べられています。このときの「趣旨に反する」とは、具体的にどのような場合をさすのですか。これらの法律の趣旨に反することとならないよう「留意する」とは、具体的に誰が何をどうすれば、条件をみたすのでしょうか。
・同居親が睨みつけられ罵られた、馬鹿にされた、大声で怒鳴られた、暗い部屋に閉じ込められた、「あほ・ばか」「出来損ない」などの言葉を投げつけられたなど、もう一方の親の言葉や表情・態度によるDVや虐待に子どもが傷つき、そのような親と接触することが「辛い」と考えている場合でも、子は別居親と接触しなくていけないのですか。そのような接触が、子どもの最善の利益に資するとする根拠は何ですか。
第3条 (国及び地方公共団体の責務)
1 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、父母の離婚等の後における 子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。
2 地方公共団体は、基本理念にのっとり、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維 持等の促進に関し、国との連携を図りつつ、その地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責 務を有する。
・この法案は、離婚等の後に子が父母との継続的な関係を持つことの実現を図ること(2条1項)だけでなく、「子にその意思を表明する機会を確保するよう努め(る)」こと、「子の健全な成長及び人格の形成が阻害されることのないようにしなければならない」こと(同2項)、「児童虐待防止法及び配偶者暴力防止法の趣旨に反することとならないよう留意しなければならない」(同3項)をも基本理念としています。
・国が策定と実施の責務を負うことになる「父母の離婚等の後における子との継続的な関係の維持等の促進に関する施策」とは、具体的にどのような施策ですか。
・「子が意思を表明する機会に関する施策」とは、具体的にどのような施策ですか。
・「子の健全な成長及び人格の形成が阻害されることのないようにするための施策」とは、具体的にどのような施策ですか。
・「児童虐待防止法及び配偶者暴力防止法の趣旨に反しないよう留意する」ための施策とは、具体的にどのような施策ですか。
・3条で国が策定と実施の責務を負うのは「促進に関する施策」だけです。これでは、継続的関係維持の「促進」には必ずしも繋がらない「子の意思表明の機会を確保」し、「子の健全な成長及び人格形成を阻害しないように」し、「児童虐待防止法及び配偶者暴力防止法の趣旨に反しないよう留意す(る)」ための施策が抜け落ちることになりませんか。2条2項・3項の基本理念と矛盾することになりませんか。
第4条 (関係者相互の連携及び協力)
国、地方公共団体、民間の団体その他の関係者は、基本理念の実現を図るため、相互に連携携を 図りながら協力するよう努めなければならない。
・実現を図るべきとされる「基本理念」とは、子どもが父母との継続的な関係を持つことを実現することだけを、意味しているのでしょうか。それとも、同じように基本理念とされている「子の意思表明の機会の確保」「子の健全な成長及び人格形成を阻害しないようにすること」「児童虐待防止法及び配偶者暴力防止法の趣旨に反することとならないよう留意すること」の実現も、含んでいるのですか。
・子どもの意思表明の機会を確保し、子どもの健全な成長及び人格の形成を阻害しないよう注意し、さらに、児童虐待防止法及び配偶者暴力防止法の趣旨に反しないように気をつけつつ、子と父母との継続的な関係のありかたを調整するのは、とても難しい作業であり、家庭裁判所でもその扱いに苦慮しています。そのような難しい調整を、紛争解決の専門機関ではなく、子どもの意思等を聴取するためのシステムも持たない行政機関が、的確に行うことが可能でしょうか(家庭裁判所には、子の意思等を聴取する役割を持つ家庭裁判所調査官がいます)。可能ということならその根拠は何ですか。
・家庭裁判所における現状の手続きにおいても、原則面会交流実施の原則にもとづいた画一的な処理の結果、子ども達を傷つけている現状が明らかになっています。専門性も家族紛争解決システムも持たない行政機関が、この手続きを行うとなれば、家庭裁判所よりももっと画一的に処理をせざるを得ず、子ども達をいっそう傷つけることになりませんか。
・「民間の団体その他の関係者」とありますが、「民間の団体」「その他の関係者」とは、具体的にどのような団体・個人を指しているのでしょうか。
・「民間の団体」「その他の関係者」には、DVや児童虐待の問題に取り組んでいる民間団体や個人も含まれるのでしょうか。含まれるならば、これらの団体や個人も、子と父母との継続的な関係維持等のために、国、地方公共団体と連携し協力する努力義務を負うのですか。負うとした場合、DVや児童虐待の被害者が、民間団体や個人に支援を求めることを躊躇させることになりませんか。そうなれば、児童虐待防止法及び配偶者暴力防止法の趣旨に反することになりませんか。
・「その他の関係者」には弁護士も含まれますか。含まれるとした場合、弁護士は具体的にいかなる協力をすべき努力義務を負うことになるのですか。
第5条 (法制上の措置等)
政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
・法律の目的達成のために必要な「法制上の措置」「財政上の措置」「その他の措置」とは、具体的にどのような措置ですか。
第6条 (離婚後の面会及びその他の交流等に関する取決め)
1 子を有する父母は、離婚をするときは、基本理念にのっとり、子の利益を最も優先して考慮し、 離婚後の父又は母と子との面会及びその他の交流並びに子の監護に要する費用の分担に関する書面 による取決めを行うよう努めるものとする。
・養育費と面会交流の取り決めをする努力とは、何をどこまですればよいのですか。必要な努力をしたかどうかを誰がどのように判断するのですか。必要な努力がなされていないと判断された場合は、どうなるのですか。一方が納得しないために取り決めが成立しない場合、他方はどうすればよいのですか。あとで他方から非難されることをおびえたり心配したりして、別居できなければ、紛争が激しくなって子どもの福祉が害されます。この事態をどうするのですか。
・別居前は紛争が激化していることが多いのですが、この時期に子どもの福祉にかなう取り決めをするのはとても難しいことです。別居させないための無理な要求や別居したいための迎合が生じやすいのですが、そのような取り決めであっても子どもの利益になるとする根拠は何ですか。あとからその是正が必要となる場合、具体的に誰がいつどうやるのですか。
・DVや虐待等があって、被害親子の安全のために避難しなければならない場合は、どうするのですか。実際にはDV虐待があるのに客観的証拠が乏しい事案でも、取り決めの努力をしない限り、被害親子は避難できないのですか。その結果、子どもの利益がよりいっそう害された場合は、誰がどのように責任をとるのですか。取り決めの努力をしないまま避難したら、どうなるのですか。
・DV虐待から避難するための別居に対し、加害者である親が「DVや虐待の冤罪だ、6条違反(努力義務違反)だ」と被害を受けた親を非難したら、被害親は法的に非難されるのですか。具体的にどうなるのですか。
2 国は、子を有する父母が早期かつ円滑に前項の取決めを行うことができるよう必要な支援を行うと ともに、子を有する父母であって離婚しようとするものに対し、父母の離婚後においても子が父母と 継続的な関係を持つことの重要性及び離婚した父母が子のために果たすべき役割に関する情報の提 供を行うものする。
3 地方公共団体は、子を有する父母が早期かつ円滑に第一項の取決めを行うことができるよう必要な 支援を行うとともに、子を有する父母であって離婚しようとするものに対し、前項の情報の提供を行うよう努めなければならない。
・国や自治体は、父母が別居するときの取り決めに対して、具体的にはどんな支援をするのですか。離婚の相談に来た人に、別居前取り決めを勧めるのですか。子どもの利益を害する面会交流がありえますが、誰がどのような基準でスクリーニングをし、誰にどのような支援をするのですか。国や自治体が判断を間違った場合、責任は誰がとるのですか。
・国や自治体は、別居親からの非難を恐れ、DV虐待事案であっても、加害者に迎合してでも取り決めを行うようにと被害者を「支援」するおそれがありませんか(とくに客観的証拠が少ない場合のDV虐待など)。DV被害者を保護する条件として、取り決めを求めるようなことは起こりませんか。これらの事態は児童虐待防止法およびDV防止法の趣旨に反するのではないですか。その是正は誰がいつどのように行うのですか。
・別居後も、母子福祉などの社会福祉業務を通じて、面会の取り決めや実施を国や自治体が同居親に説得することになるのですか。別居親の要求に従うことが子どもの福祉を害する場合でも、その説得や指導はこの法案に基づいてなされるのですか。
・2項後段の情報提供の内容として、「離婚した父母が子のために果たすべき役割」とは具体的に何を指すのですか。「子の監護に関する費用の分担」が明示的に含まれていないのはなぜですか。
第7条 (定期的な面会及びその他の交流の安定的な実施等)
1 父母の離婚等の後に子を監護する父又は母は、基本理念にのっとり、当該子を監護していない父又は母と当該子との定期的な面会及びその他の交流が子の最善の利益を考慮して安定的に行われ、 親子としての良好な関係が維持されることとなるようにするものとする。
・子どもは日々成長します。子どもの意思や希望は変化し、生活状況や別居親との関係も変化します。別居親の生活状況も変化します。ある時点(とくに紛争下)で親が決めた「定期的」交流が、その後もよいとは限りません。一人一人のその子どもの状況にじゅうぶんに考慮した「柔軟」な交流が、望ましいのではないですか。
・「安定的」とは具体的に何をさすのですか。「定期的」という意味であれば、上で述べたような疑問があります。内容をさすのであれば、子どもにとって「希望する内容」「好ましい内容」でなければならないはずですが、そのような意味でしょうか。
・「良好な関係の維持」の当事者は別居親と子どもであり、何よりも別居親が努力し責任を持つ必要があります。ところがこの法案は、別居親の努力や責任には何ら言及しないまま、同居親に交流を妨害しないという以上の責任、別居親と子との関係維持の責任を負わせていますが、その理由は何ですか。
・子どもの意思や気持ちは、同居親のものではありませんし、同居親がコントロールできるものでもありません。同居親に別居親と子どもとの関係を維持する責任を負わせれば、同居親がその責任を果たすために子どもの意思や気持ちを無視して交流を強制することになり、同居親と子との関係も悪化する危険があります。子どもの利益に反するのではないですか。
・別居親が子どもに関心を示さない、再婚したら会いに来なくなるなど子どもとの関係維持に協力しない場合はたくさんあります。こういう場合に、この法律案は適用されるのですか。別居親には適用されないとしたら、その理由は何ですか。
2 父母の離婚等の後に子を監護する父又は母は、当該子を監護していない父又は母と当該子との面会 及びその他の交流が行われていないときは、基本理念にのっとり、当該面会及びその他の交流ができる限り早期に実現されるよう努めなければならない。
・第1項でも述べたように、別居親が子どもとの面会その他の交流に協力しない場合に、この法律案は適用されるのですか。適用されないとしたら、その理由は何ですか。
・「別居親と子との面会その他の交流」の実現が、何故、同居親の責任になるのでしょうか。当事者は別居親と子であり、何よりも当事者である別居親が努力し責任を持つべきではないのですか。
・子どもの意思や気持ちは、同居親のものではありませんし、同居親がコントロールできるものでもありません。第1項と同じように、同居親に別居親と子どもの交流の実現の責任を負わせれば、同居親がその責任を果たすために子どもの意思や気持ちを無視して交流を強制することで、同居親と子との関係も悪化する危険があります。子どもの利益に反するのではないですか。
3 国は、前二項の面会及びその他の交流の実施等に関し、子を有する父母に対し、その相談に応じ、 必要な情報の提供その他の援助を行うものとする。
4 地方公共団体は、第一項及び第二項の面会及びその他の交流の実施等に関し、子を有する父母に対し、その相談に応じ、必要な情報の提供その他の援助を行うよう努めなければならない。
・国や地方公共団体の相談・援助等は、「面会その他の交流の実施」に向けたものだけとなっています。しかし、国や地方公共団体には児童虐待防止法及びDV防止法に基づく被害者の保護等の責務があり、子どもについては、子どもの安全を守るのが国や地方公共団体の第一の役割です。虐待DV事案も含め面会実施が子の利益を害する場合がたくさんあるだろうと考えられるなかで、国や地方公共団体に「面会その他の交流の実施」に向けた基づく相談・援助等の職務を課すことは、児童虐待防止法及びDV防止法に基づく被害者の保護等の責務に抵触するのではないですか。そのことはまた、本案2条3項の基本理念(児童虐待防止法及び配偶者暴力防止法の趣旨に反することとならないよう留意)に反するのではないですか。
第8条 (子を有する父母に対する啓発活動等)
1 国は、子を有する父母が婚姻中に子の監護をすべき者その他の子の監護について必要な事項に関する取決めを行うことなく別居することによって、子と父母の一方との継続的な関係を維持することができなくなるような事態が生じないよう、又は当該事態が早期に解消され若しくは改善されるよ う、子を有する父母に対し、必要な啓発活動を行うとともに、その相談に応じ、必要な情報の提供その他の援助を行うものとする。
2 地方公共団体は、前項の事態が生じないよう、又は当該事態が早期に解消され若しくは改善される よう、子を有する父母に対し、必要な啓発活動を行うとともに、その相談に応じ、必要な情報の提供 その他の援助を行うよう努めなければならない。
・「子どもの監護をするべき者とその他監護についての必要な事項」を「同居中に取決めないで別居すること」が、そのまま「子と別居親との関係途絶」となるとする根拠は何ですか。
・取り決めがなくても、子どもと別居親がよい関係を維持している例はたくさんあります。子どもと別居親との関係が途絶えるとしたら、その原因は、同居中の親子の関係(別居親によるDVや虐待など)、別居親による遺棄、別居後の子どもの生活の都合や環境と心情と健康、父母間の葛藤の激しさなどによるところが大きいのではないですか。
・子の心身の安全確保のためには早期に別居(避難)すべき場合はたくさんありますが(虐待・DVの場合など)、そのような場合に、別居前の面会交流の取決めを求めることは、危機な状況をいっそう強め、子どもにとっても、非常に危険です。別居前の取り決めが、一般的に必要かつ適切であるとの前提にたつことは、子どもを危険にさらすことになりませんか。
・別居後の継続的な関係が途絶えることが、子どもの利益に合致する場合もあります。一般的に「当該事態が早期に解消され」「改善される」ことが正しくて、それだけを「援助」するのであったら、そのような子どもの利益を損なうのではないですか。
・子どもの利益を損なう上記のような場合は除外すればよいということなら、国や地方公共団体はこの条項に則って、「援助」を実施すべきかどうか(例外に当たるかどうか)をどのように判断するのですか。
第9条 (子の最善の利益に反するおそれを生じさせる事情がある場合における特別の配慮)
前三条の規定の適用に当たっては、児童に対する虐待、配偶者に対する暴力その他の父又は母 と子との面会及びその他の交流の実施により子の最善の利益に反するおそれを生じさせる事情がある場合には、子の最善の利益に反することとならないよう、その面会及びその他の交流を行わないこととすることを含め、その実施の場所、方法、頻度等について特別の配慮がなされなければならない。
・「面会交流の実施により子の最善の利益に反するおそれを生じさせる事情がある場合」として、児童に対する虐待と配偶者への暴力とが挙げられていますが、他にどのような場合が含まれるのですか。子どもが会いたくないという場合や、父母間の高葛藤は含まれるのでしょうか。
・これらの事情の有無は具体的に誰がいつ何に基づいてどのような手続きで判断し、それに基づく「特別の配慮」の内容は具体的に誰がどのように決めるのですか。また、その判断が6条~8条の適用に当たって具体的にどのように反映されるのですか。
・「児童に対する虐待、配偶者への暴力その他」があっても、それに加えて「面会交流の実施により子の最善の利益に反するおそれを生じさせる事情がある」と判断されなければ、6条~8条がそのまま適用されるということですか。そうだとすると、児童虐待防止法及びDV防止法の趣旨に反するのではないですか。
・虐待やDVは身体に対する加害行為だけではなく、心理的、性的、ネグレクトなど、むしろ身体的に限定されない加害行為の方が多いのです。客観的証拠が残らない事案がとても多いことは、別に不自然なことではありません。家裁裁判所でも虐待やDVの有無は時間をかけて丁寧に調査しないと判断できないのですが、国や自治体においては具体的に誰がいつどのような手続きによって判断するのですか。その判断が適正であるとの担保はどこにあるのですか。
第10条 (民間団体の活動に対する支援)
1 国は、父又は母と子との面会及びその他の交流の円滑かつ適切な実施のための支援その他の活 動であって民間の団体が行うものを支援するために必要な措置を講ずるものとする。
2 地方公共団体は、前項の活動を支援するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
・面会交流実施のための支援を行う団体だけを支援対象としているのは何故ですか。子どもの利益の立場からは、虐待やDV、葛藤などで苦しんでいる子どもの支援を行う団体、養育費確保の支援を行う団体などへの支援が必要ですが、これらの団体への支援を規定しない理由は何ですか。
・支援対象とする団体は具体的にどのような基準で選定するのですか。「冤罪DV」や「片親引離し」を喧伝する団体も、支援対象にするのですか。
第11条 (人材の育成)
国及び地方公共団体は、父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促 進に寄与する人材の確保及び資質の向上のため、必要な研修その他の措置を講ずるよう努めなければ ならない。
・「継続的な関係の維持等の促進に寄与する人材」とは、具体的にどのような知識経験や資格をもった人ですか。また、どこでどのような活動を行う人ですか。
・「継続的な関係の維持等の促進」によりさらに傷つく子ども達が現実におり、そのような子どもに「継続的な関係の維持等の促進」を働きかければ、子どもの利益をよりいっそう害します。必要なのは、子ども本位の支援ができる人材ではないのですか。
第12条(調査研究の推進等)
国及び地方公共団体は、父又は母と子との面会及びその他の交流の実施状況、子の監護に要する費用の分担の状況等に関する調査及び研究を推進するとともに、その結果を踏まえて父母の離婚 等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する施策等の在り方について検討するよう努めなければならない。
・養育費は子の生存の経済的基盤であり、既に「子どもの貧困」は待ったなしの状況です。監護費用の分担(養育費の支払い)は、調査・研究ではなく、その確保を先行すべきではないですか。
第13条(国の地方公共団体に対する援助)
国は、地方公共団体が行う父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の 促進に関する施策に関し、必要な助言、指導その他の援助をすることができる。
・国や地方公共団体には、児童虐待及びDVについて防止、被害者の保護及び支援などを行う責務があります(児童虐待4条、配暴法2条)。この責務と「父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持の促進に関する施策」とは、どのような関係になるのですか。
附則第1条
この法律は、公布の日から施行する。ただし、第六条から第九条までの規定は、公布の日から 起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
・この法案の中心は6~9条であると思われますが、その実施を相当期間(2年半)遅らせることにした理由は具体的に何ですか。子どもの意思確認の方法やそのための体制の充実、特別の配慮を必要とする事情の有無に関する調査、その他特別の配慮の在り方などについて検討を加える必要があるとの説明がなされているようですが、これらはいずれも本法案の内容に関わる重要な検討課題です。ですから、仮に本法案のような法律が必要であるとすれば、その法案のなかに、具体的にその実現のための方策を整備した規定を盛り込むべきです。その検討に相当期間(2年半)を要するのなら、むしろその期間をかけて熟慮検討し、その後、本法案の適否を判断するのが通常の立法作業のあり方です。重要な検討課題を残したまま、まずは法案を成立させようとるす理由は何でしょうか。
附則第2条
国は、第六条から第九条までの規定の円滑な実施を確保するため、この法律の施行後二年以内 に、父又は母と子との充実した面会及びその他の交流を実現するための制度及び体制の在り方並びに 同条の事情の有無に関する調査に係る体制の充実その他の同条の特別の配慮の在り方について検討 を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
・2年以内に、取決めの有無、実施不実施、別居と別居後の関係途絶、DV虐待の事情の有無を調査する「体制の充実その他の特別の配慮の在り方について」検討し所要の措置を取るということですが、これは、「現時点では、DV虐待を含め、被害者と子どもの安全安心を確保する体制がなく、面会等推進によって安全安心が害される事態をどう防ぐかの方策がない」ということを示しているということになります。
安全確保の見通しがないままに、安全を害する危険のある法制定を行う理由は何ですか。それが子どもの最善の利益になるという理由は具体的に何ですか。
附則第3条
1 政府は、父母の離婚後においても父母が親権を共同して行うことができる制度の導入、父母の 離婚等に伴う子の居所の指定の在り方並びに子と祖父母その他の親族との面会及びその他の交流の 在り方について検討を加えるとともに、子の監護に要する費用に関し負担する債務の履行の確保その他の父母の離婚等の後における子の適切な養育の確保のための支援の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
2 政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要が あると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
・離婚後共同親権、子の居所指定の在り方、祖父母等面会交流範囲の拡大について、検討する理由は何ですか。現行の離婚後の子の監護法制を変更しなければならないとする理由(立法事実)は具体的に何ですか。
・「この法律の施行の状況」は、具体的にどのように把握するのですか。例えば、オーストラリアでは、政府がエビデンスにもとづいて調査研究する体制を敷き、信頼性のある報告にもとづいて検討したのですが、日本では具体的にどうするのですか。
・施行5年後に検討するのであれば、法律の制定を議論する現段階において、現行の離婚後の子の面会交流制度を改めなければならない必要性の有無(立法事実)を、信頼性のある調査報告にもとづいて検討すべきではないですか。そうしない理由は何ですか。信頼できる調査報告がなければ、まずは現状の調査を行うべきではないのですか。
その他
・本法案は民法の基本原則である「離婚後単独親権,単独監護」の原則に直接・間接に影響します。だとしたら、正規の法改正手続きである法制審議会での審議の手続を経て立法化すべきであると思われますが、それを議員立法で行おうとされるのはどのような理由からでしょうか。
以上