北海道十勝平野・村上農場http://imomame.jp/の村上智華(むらかみ・ちか)さんのジャガイモの紹介が素晴らしい。
生産するジャガイモのレシピをひと月半に1回季節ごとに作成をして、購入先に届けている。
それも料理の写真に材料と作り方がついていて、そのまま料理に使えるものだ。


村上智華さん


これまで作ったレシピは100以上
「ジャガイモを直接、購入される方に宅急便で送っているんですが、ひと箱のジャガイモを楽しんでもらえるようにレシピを入れています」
 例えば、「手巻きポテトサラダ」。ジャガイモのマッシュ、玉ねぎスライス、大葉、ちくわ、ハム、ベーコン、卵、ピクルスなど、好みの具を海苔に巻いて、テーブルで食べるというもの。
 「じゃがいもと豚バラ肉のサブジ風」。ジャガイモ(男爵・北あかりがお勧め)。キャベツ、豚バラブロック、クミン、塩。クミンの香を聞かせ、ジャガイモと豚肉を炒め合わせたもの。などなど。
 どれもが簡単そう。作りたくなる。料理から写真まで、智華さんが、一人でこなし、それも10年以上続くというからすごい。これまで作成したレシピは、軽く100以上はある。
 10年前、田舎でアンチョビは購入できなかった。ところが、ここ5、6年は、アンチョビがコンビニで買える。地方のお客様も簡単に手に入れることができる食材になり、アンチョビを使って、とレシピに書ける様になった。食材も変化し豊富になっている。
「取引先の東京のレストランに行って、ジャガイモの入ってないメニューを見て、これにジャガイモを入れたらどうなるかとか。それらをヒントにレシピを考えています」


ジャガイモ50種類を試して23種類を栽培!
 村上農場は帯広空港から約70分。50ヘクタールの畑で、ジャガイモ20種類、豆20種類、トウモロコシ8種類、カボチャ8種類などを、無農薬無化学肥料、または特別栽培(地域の慣行の2分1以下の農薬・科学肥料使用にするもの。村上農場では、共に7割減以下)で栽培をしている。これだけ多品種を栽培しているところはほとんどないだろう。売り上げは周辺の農家の平均のおよそ3倍になる。
 生産をしているジャガイモが半端ではない。20種類もある。しかもすべてテイスティングをして、マッシュに向くとか、煮物にいいとか、データを出している。50種類のジャガイモを実際に植えて、どんなジャガイモがいいのか、熟成変化の面白い品種を選抜し、20種類を栽培しているのだという。それにレシピがついてくる。こんな農業の展開は、これまでにほとんどなかったのではないだろうか。

「最初は4から5種類。15年前、当時は、珍しいインカのめざめ、カラージャガイモが出始めた時期でした。試験的に少量を栽培してみようと始めましたが、食べてみたものの、まったくおいしくなかった。高い種イモを買ったけど、残念だけど作る価値がないかなと判断したんですね。そっと倉庫の隅に置いておいた。

 かなり寒くなった頃、夫から、せっかく作ったジャガイモだから、もう一度食べてみないかといわれたんですね。それでだめならしょうがないと言っていた。すると味の変化に気づいた。ジャガイモは環境を整え、低温で貯蔵すると、糖化したり粘化したりする。栽培や気候の変化、環境によっても味が変わる。逆に変わらないものもある。じゃあ、ほかの品種も試したら面白いんじゃないかと始めたのです」

自分たちの生き方を探していったら、栽培法も売り方も変わっていった
 そこからジャガイモの、さまざまな品種を栽培してみることに。
「自分たちの勉強のために始めた。売るためにやったのではなくて、気づいてしまったので、やるしかなかった(笑)。直接売るというのは、自分たちの生き方を探していたら、そうなったんですね」
 販売先は、道外に直接99パーセントを出荷。それも個人客だけで1100名。ほかに飲食店、百貨店、小売店など200社以上あるという。
 北海道十勝平野は大規模農家が集まったところ。平均が50ヘクタール。北海道では平均25ヘクタールというから、その倍の規模。これまでの十勝平野の農業は、ジャガイモ、豆、ビート、小麦の輪作で、収穫したものは全量農協出荷だ。ところが村上農場は、農協出荷ではなく、自主流通をとっている。

「自分たちの生き方を求めていったら、栽培方法も売り方も自然と変わっていった。有機農業とか、特別栽培とかをすると、大型農業では難しいというイメージですよね。ところが、大型だから出来る丁寧な仕事という、発想の転換も出来る。農薬を使わないと雑草がでて、除草の仕事がある。冬場は、ジャガイモの品種ごとに熟成のタイミングが異なり、それにあわせて出荷するので仕事が生まれる。通年で仕事があるから、うちではおかげで3名を雇用しています。3名揃えば、その頭脳と技術でかなり細やかな仕事が出来ます」
 ジャガイモの多品種栽培と、熟成の違い、それにあわせての出荷、環境保全型農業が、通年の仕事と雇用まで生み出した。販売先は、直販で道外に販路を作った。それらの組み合わせが、まったくこれまでの農業と違ったものを生み出した。

「販売をスタートさせた頃、東京の塩川恭子さんの『食の学校』に参加し、多くを学びました。私がラッキーだったのは、食べ物の勉強から始めたこと。例えば、お醤油、お酢、お味噌、原料・添加物など、だれが作り、どんな作り方をし、どんな流通に流れているかを学んだ。食に関わる仕事を極めるには、食全般の知識が絶対に必要です。農業の知識だけでは駄目。もともとは農協出荷だったので、焦って広げるというのではなくて、勉強しながら、いいご縁をいただいて、そこからじっくりと販路が広がりました。」



対話する農業の始まり 
 今では、8月、9月の農場には、直接、取引先やシェフが、東京や関西から畑を見に来る。もてなし料理は智華さんが手がけるという。
「小売店さんはもちろん、30代後半のオーナーシェフも多いですね。イタリアン・レストラン、フレンチ・レストランの方たちは、バカンスを利用して来てくださいます。
 世の中、食べごろの熟成したジャガイモを、その時期にあわせて送っている農場はないと思う。最近は、ニッチなものが喜ばれるという方向に変わってきたと思います。最初は、段ボール1箱から始まりました。今では、一日に100個単位で宅急便で送っています。これまで十勝平野の農業者の自主流通は、5トン、あるいは10トンコンテナで卸しさんに送って、それで終わりだった」。

 智華さんは、ひと月のうち、東京に1度、ときには2度も出かける。勉強会の参加、あるいは講師として、そして取引先のレストランに食事をしにいったり、紹介されたお店を訪ねたり。営業なのかと尋ねると「うーん。なにしているんでしょう。知り合いも増えたので人の紹介が多いかな。販売は口コミがほとんど。小売店さんやレストランが紹介してくださる」

 東京での勉強会に参加したのは12年前。そこから取引先にも通い、交流を深め、市場やスーパーのバイヤーが必ずしもジャガイモに精通をしているわけではないとわかり、データを出し、レシピを提案し、料理を学ぶことが始まったという。今は、その積み重ねが、対話する農業という新しい形を生み出している。

 そんななかで生まれたのが小さいサイズのS、SSのジャガイモの販売。これまでだと、小さな規格外のジャガイモは、ほとんど、価格もつかなかった。ところが、智華さんは、取引先に小さなジャガイモも紹介をして、今では、一般のジャガイモと同じように販売ができるようになったという。収穫したもの全体の、価格や販売が安定をしたことから雇用にもつながった。

 かつては農協へ全量出荷をしていたが、徐々に直接販売が増えていった。そのほとんどが口コミだという。
 6種類のジャガイモ詰め合わせ10kgからスタートをした。少ないほうがいいという声があり、6kgや3kgの詰め合わせも作った。ジャガイモは50種類を試験栽培して、熟成変化を調べ、そこからテイスティングをして、いいものを選抜し、それに合う料理を作りレシピとセットで販売をしていくことに。
「半年に4回頒布会があって、最初のころは50口ほどでした。それが翌年は100口、翌年は200口、400口と倍々になっていった。自分で始めたことですが、注文を取り、伝票を作って、ジャガイモを詰めないと完成しない。つらいときは、一週間、数時間しか寝なかったこともあった。当時は、パソコンを打ちながらボロボロ泣いていました。仕事が追い付かないって(笑)」

 注文はインターネットかと思いきや、電話とFAXのアナログ対応。電話は朝9時から夕方6時まで対応している。とくに11時から12時が多いという。 「よけいな話が必要なんです。それぞれのお客様にぴったりなものを送りたいから、会話をしながら希望を絞っていく。電話くださる方は多くが女性で、会話しながらの買い物を、楽しみにしているという方も多いです」

美味しい話は誰もが幸せ
 ジャガイモの送り方はオーダーメイド。相手がどんな料理をするのかに合わせて、ジャガイモの品種を選んで箱詰めにする事も多い。
「その人の家族の人数とか、地方によって料理もことなる。東京では、一週間に自宅で何回食事をとるか、など。画一的なオーダーではなくて、お客様の生活や好みに合わせてお届けすると満足度も高い。それが面白いし、基本的に、召し上がっていただいて、味わいの共感が生まれるのが楽しくなる。美味しい話をしている時は、誰もが幸せなんです」
 それぞれのお客様ごとに、カルテのように、どんなジャガイモを送ったのか、品種の好み、家族構成、場合によっては病気や離乳食中なども記録しているという。
 ジャガイモの品種も多いが、豆も20種類。それも在来種を中心に栽培。蔓が5、6メートルも伸びるので、竹を4本まとめ立て絡ませる。竹だけで3万本が必要だ。その労も惜しまない。


「だっていいもの作るには、当然、手間暇はかかります」と明快だ。
 この豆も、ミックスビーンズというのがあって、11種類が袋に入り、そのまま、炊くと彩り豊かな炊き込み豆ご飯ができる。またレストランのサラダ、スープなど、彩り豊かな演出を添えている。

ミックスビーンズを使った炊き込み豆ごはん

 「最近、かぼちゃ栽培で収穫量が増えたんですよ。畑に巣箱を置き、ミツバチに受粉を手伝ってもらったら、一気に反収が増えた。それまでは、受粉は自然に任せており、収穫量が増えないと悩んでいた。」
 ミツバチの環境に問題となっているのが、浸透性農薬(ネオニコチノイド)と呼ばれる殺虫剤。農業分野では、稲作のカメムシ対策で使われている。フランス、イタリアなどでは、ミツバチを絶滅させることから禁止されている。環境も配慮し、農薬を使わず、ミツバチを導入したことが、いい結果を生んだ。今度は、ハチミツにも挑戦したいという。  


村上智華さんは、これまでの農業の概念をすっかり変えた
 そんな智華さんにインスピレーションを与えた本があるという。
 『上野千鶴子のサバイバル語録』(文藝春秋)の言葉に刺激されたという。それは本のなかにあった『50代で新しい分野に参入せよ』というもの。「50代の研究者は若いころの生産性を失って、過去の自分の業績を模倣し始める。そうならないためには、自分がビギナーである違う分野に参入すればいい。まったく知識のなかった高齢者福祉が、私にとって新しい分野になった。未知の分野は異文化で、異文化は楽しいのよ。(朝日新聞「人生の贈りもの わたしの半生)」 「はっと思った。これまでの仕事の成果が出てきた時に、上野千鶴子さんの本に出合った。この言葉で、基本が大事と思うあまりに、固執しすぎ、ルーチンになっていたことに気が付いたのです。これまでの仕事を自らが認め、基本から少し離れたディテールを固める作業を進めれば、基本はより強固なものになる。これまでのことは一旦おいて、次の展開を始めよう。そう思いました。
 同じようにスタッフにも常に新しい経験をしてもらいたい。その一つが、取引先のお店や、飲食店へのスタッフのインターシップでした。スッタフもほかの店の現場も知ってみたいというので、実際に行ってもらった。そんななかで、私を含めたスタッフ数人から、ジャガイモの食べ方が、きちんと届いていないというと報告が出てきたので、それを受けて、じゃあ、こちらでPOPも作成し、売り場でレシピまで提案をしていこうとなりました。しばらくは、こうしたプラスαの作業を積み重ねて行きたいと思います。
 s、ssサイズのジャガイモを売ること、ミックスビーンズを売ることもそうですが、その多くはこれまでは流通が優先され、商品としては存在しないも同然だった。そうした、世の中にあっていいはずなのにないものに、生産者目線、消費者目線を生かして、新しい食べ方の提案を、今後もチャレンジをしていきたい。」

 智華さんの切り開いた農業の形は、新しい未来の希望を抱かせるのに十分の夢をもっている。



ミックスビーンズ

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