あいさつをする渋谷さん

〇シンポジウム「取り戻そう生活時間」を開催

 日本の長時間労働が大きな社会問題となっているなかで、「取り戻そう 生活時間」をテーマにしたシンポジウムが6月26日に東京・田町交通ビル会議室で開かれ、約70人が参加しました。

 これは、かえせ☆生活時間プロジェクトが主催する二回目のシンポジウムで、WANとの共催で開かれたものです。

 冒頭、かえせ☆生活時間プロジェクトの浜村彰法政大学教授と、WANの渋谷典子副理事長が開会挨拶を行ない、浅倉むつ子早稲田大学教授の基調講演と、棗一郎弁護士による労働時間法制を中心とした情勢報告が行なわれました。このなかで、浅倉教授は、政府の「働き方改革」を批判し、「長時間労働が問題なのは、生命や健康が危ないということだけでなく、生活時間が貧困だという点を問題視する必要がある」として生活時間確保の重要性を強調。これまで生活時間が重視されてこなかった要因として、賃金重視の労働組合の対応とともに、他人のケアに責任を持たずにきた男性の生き方(ケアレスマンモデル)に問題があることを指摘しました。そのうえで、生活時間は、個人に帰属するだけでなく、地域や社会で共有され、公共性をもつことを訴え、生活時間確保に向けた施策のなかでも、地域において人々が企業をチェックできるような「モニタリング」の重要性を強調しました。

 続いて、パネル討論が行なわれ、安藤哲也さん(ファザーリングジャパン代表理事)、森智香子さん(WAN会員、チーム=ディーセントワーク副代表)、内海早苗さん(日本教職員組合女性部長)のパネリストが、圷由美子さん(弁護士)の司会で討論を行ないました。

 このなかで、安藤さんは、自らの子育て体験を通じて、日本はなんて男性が育児をしづらいのかということに気づき、定時退社やPTA活動への参加などを経験するなかで、「笑っている父親が社会を変える」をモットーに父親の子育てを支援するNPOファザーリングジャパンを立ち上げた経緯を説明。「子育てに参加するお父さんが増えてくると、家庭や地位此の問題が予防されるだけでなく、長時間労働が減って生産性が上昇し、男女共同参画にもつながる」と指摘。それを促進していくには、職場の先輩や上司の働きかけが有効であると同時に、労働時間規制だけでなく業務の見直しが必要であると強調するとともに、中長期的な視点で取り組んでいく必要性を訴えました。

 森さんは、チーム=ディーセントワークの活動を紹介する一方、子育て時に、残業が当たり前の職場で一人だけ早く帰るのが心苦しかったという経験に触れ、「みんなが堂々と早く帰れる職場の実現をめざしたい」と強調。「ワークショップでの討論でも、「一家の大黒柱はいらない」という意見もでている」として、法制度の問題だけではないことを指摘しつつ、人生百年時代の新しい働き方として、互いに競争する猛烈な働き方ではなく、「そこそこの収入、そこそこの仕事、そこそこの生きがいで、自分らしいバランスで働ける社会、「自分の時間を自分のものにできる」社会をめざしていきたい」、と今後の抱負を示しました。

 内海さんは、日本の教師の労働時間が国際的にも突出していることとともに、「教師たちが自分の所定時間を知らない」という調査結果を紹介。長時間労働の背景には、残業じかんと手当が直結していない法制度上の問題や、指導要領の改定などで、教師のやるべき業務が広がる一方であることなどを指摘しました。最近の連合総研への委託研究を通じて学んだ「生活時間」という考え方は「目からウロコだった」と述べるとともに、きちんと生徒たちに向き合っていくだけでなく、「教師も人間だし生活がある」と主張していきたいと強調し、「生活時間について保護者の理解を求めていくためにも、地域へ、職場の外に出て発信していきたい」と決意を明らかにしました。

 最後に、法政大学大学院の毛塚勝利客員教授が閉会挨拶を行ない、シンポジウムは幕を閉じました。

※ このシンポジウムの内容は、労働法律旬報1893号(2017年8月上旬号)に掲載されます。