
『李徳全―日中国交正常化の「黄金のクサビ」を打ち込んだ中国人女性―』
程麻・林振江 (著)、林光江・古市雅子 (翻訳) 、石川好 (監修)
戦後の日中関係を切り拓いた先達たちの中に、物腰柔らかく大らかで親しみやすい女性の姿がありました。かつて軍閥将軍・馮玉祥の夫人であり、のちに中華人民共和国政府の初代衛生部長(厚生大臣にあたる)となり、中国紅十字総会会長も務めた李徳全女史です。
李徳全は若いころキリスト教に帰依し、戦争孤児の救済など社会福祉事業や教育事業の場に身を置いてきました。新中国建国後、まだ日本と中国の間に国交がなかった時代、彼女は中国紅十字総会会長として戦後中国大陸に残された日本人居留民の帰国に尽力しました。一般人の引き揚げがほぼ完了した後もまだ千人あまりのB・C級戦犯が中国に抑留されていましたが、1954年、李徳全はその日本人戦犯名簿を携えて日本を訪問したのです。彼女が率いた中国紅十字代表団は国を挙げての大歓迎を受け、李徳全のふるまいは、それまでの共産中国に対するマイナスイメージを一新させ、日本人の心に親しみの念を抱かせました。
歴史の中に埋もれていたこの出来事を今に伝えたいと、日中両国の研究者が共同で、李徳全をとりまく日中関係史を深く掘り下げたのが、本書のもととなった中国語書籍『日本難忘李徳全(日本は李徳全を忘れない)』(程麻、林振江著、中国社会科学出版社)です。
前半では、李徳全率いる中国紅十字総会代表団の訪日について、その歴史的背景、実現までの経緯、エピソードなどを拾い上げていきます。当時を知る人にインタビューを行い、日本の新聞報道や外務省の資料などを通して、李徳全の姿や当時の社会状況を分かりやすく紹介しています。後半では李徳全の波乱に満ちた生涯について主に中国側の資料を使い、青年時代のキリスト教信仰、馮玉祥との婚姻と家庭生活、抗日戦争期の慈善事業、初代衛生部長として取り組んだ公衆衛生事業にかける思いなどを読み解いていきます。
折しも日中国交正常化45周年の出版となり、内容には政治的な記載もありますが、そのような話題を離れて、苦難の時代を生きた「一人の女性」として李徳全の自立した姿をとらえ、その足跡をたどる読み方もできます。ぜひお読みになってください。
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