
日本においてフェミニストと政治学との対話は盛んではない。本書は、政治学の土俵でフェミニスト・アプローチの可能性を探ることによって、「主流派政治学」への論争を提起する冒険的な書である。
フェミニスト政治学の関心領域は思想や理論から制度、政策に至るまで多岐に及んでいる。とはいえ、研究の領域や範囲、アプローチや方法に違いはあっても、フェミニストは、多かれ少なかれ、女性に向けられる抑圧や差別、そして何よりも女性の生き辛さの要因を政治学の枠組みのなかで探求するという目的を共有する。すなわち、フェミニスト政治学は、社会、経済、政治を支配するばかりか、家庭においても優位に立つ男性によって営まれ、構想されてきた政治の営為と政治学を批判的に再検討し、それらとは異なる別の選択肢の提案をめざしてきた。
本書もこのフェミニスト政治学のレーゾンデートルを受容し、政治の営為、そして政治学に埋め込まれた(多数派)男性の優位性、女性に対する抑圧と排除、男女の間の不平等な関係に焦点を当てた。これにより政治学における常識と確立された「通説」を批判的に検証し、常識や通説とは異なるばかりか、対立し、多分に論争的とみられる考え方の大胆な構想を試みた。本書において「ジェンダー」は、フェミニズムの実践と理論から生まれた、フェミニスト・アプローチの中心的な視点と定義されている。さらに、近代以来、政治社会を支配してきた多数派男性を「主流」集団、女性とともに人種、民族、宗教、身体、性的指向などの点で少数派の人びとを「非主流」集団と称し、こうした社会的少数派の人びとの生き辛さにも言及した。
9章からなる本書は、支配体制(レジーム)、リベラリズム、市民社会、リベラル・デモクラシーという政治学の中心的課題を論じている。まず主流政治学が見落としてきた「男性支配」の構造を根源的に問い直し、続いてリベラリズムの普遍的平等の不平等な現実、市民社会の二重構造、女性とそのほかの非主流派の人びとが等しく代表されない議会制民主主義の構造的問題、さらには議会制民主主義を迂回し、政策決定過程への直接的影響力行使をめざす議会外代表に潜む問題を明らかした。本書は政治学におけるフェミニストのアプローチとは何かを問う、格好の書といえる。
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