
撮影:鈴木智哉
ケース1
私と夫は、カリフォルニア州で婚姻し、以後カリフォルニアで長年暮らし、一子をもうけました。しかし、私は夫と不仲になり、同州の郡裁判所で離婚等判決を得ました。夫は、私が離婚訴訟を提起した後、日本に帰国しました。その後私は、カリフォルニア州の裁判所で、離婚、子の扶養費、配偶者の扶養費等をそれぞれ認められました。そこで、日本で、執行許可を求める訴訟を提起しましたが、夫は、カリフォルニア州の法定利息は日本より高くて公序良俗に反する、高額な扶養費が懲罰的なもので公序良俗に反する、等と主張しています。
ケース2
オーストラリア人夫と日本人の私は日本で居住し、夫は日本で仕事をしています。しかし夫は別の女性と暮らすと言って別居してしまった上、オーストラリア・ニューキャッスルの裁判所で私を被告とする離婚判決を得て、日本で離婚届を提出してしまいました。このような離婚は認めがたいと思います。
NO.72から、外国裁判所の確定判決が日本で効力を持つためには、民事執行法24条の執行判決を得る必要があること、そのための要件は民事訴訟法118条1号から4号であることを説明しました。今回は、そのうちの、「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」(3号)を取り上げます。
◎公序良俗に反しないとされた例
ケース1の元となった東京地判平成23年3月28日判タ1351号241頁では、被告は外国判決が公序良俗に反するとし、その理由のひとつとして、扶養費等に対する遅延利息の年利10%は日本のそれより高額であることをあげて主張しましたが、判決は、確かに法定利息は日本より高額だが、日本でも約定で年利10%の利息を付すことは許容されており、当該利率が暴利であるとは認められず、公序良俗に反するということはできないとしました。
また、外国判決が,夫に対し,子の扶養費として月額1750米ドル,妻の扶養費として月額1000米ドルを支払うよう命じている部分についても、その金額をもって、懲罰的な要素を含んだものであるということはできないとしました。さらに、外国判決が,夫が経済的に破綻していたにもかかわらず,高額な扶養費及び扶養費を支払うよう命じたことなども主張しましたが、それらの主張は、外国判決の判断が不当である旨の主張であるり,執行判決は,裁判の当否を調査しないでしなければならず(民事執行法24条2項),このような認定判断の当否については判断することができないので,夫の主張は採用できないとしました。
そして、結論として、外国判決は我が国の公序良俗に反しないとして、強制執行を許可する判決をしました。
◎公序良俗に反するとされた例
ケース2のもととなった東京家判平成19年9月11日家月60巻1号108頁は、妻が夫との関係修復を望んでいることから、まだ婚姻関係が修復される可能性がないとはいえないとし、また仮に婚姻関係が破綻しているとしても、その原因は夫の不貞行為等の身勝手な行動にあるから、夫が有責配偶者である。別居期間は3年3月であり、相当長期間とはいえず、満5歳の長男がいること、経済的に不安定な状態にあること、夫から離婚に伴う十分な経済的給付が得られる見込みがあるとはいえず、離婚により妻が精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが予想されるとしました。そうすると、日本の裁判所では、夫から妻に対する離婚請求は信義誠実の原則に反し認められないことになります。
しかし、その点と、民事訴訟法118条3号の公序良俗違反はぴったり重なるわけではありません。しかし、夫婦は日本で結婚し、生活も日本で送ってきたものであり、有責配偶者からの離婚請求は信義則に反する場合は認められない法理は日本の実務で確立し重要なものであるから、尊重されなければならないとしました。
その上で、総合的に判断し、外国判決の内容は我が国の公序良俗に反するとして、効力を有しないとし、妻の離婚無効確認の訴えを認容しました。
両方とも大体常識に合致する判断ではないでしょうか。でも、あいまいさもあります。裁判例をよく踏まえる必要があります。
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