
世界に衝撃を与えた2016年アメリカ大統領選挙でのトランプの勝利。彼の大躍進を支えた中心層は、白人の労働者たちでした。メディアや知識人層は、彼らを「無知でポピュリズムに踊らされている人々」だと批判しましたが、実はそれほど単純ではなかったのでした。
著者のジョーン・C・ウィリアムズが、トランプ勝利の背景として白人労働者層のメンタリティを分析した記事を、大統領選の直後にハーバード・ビジネス・レビューのWEB版に寄稿したところ、同誌の歴史において最大の読者数を誇る人気記事になりました。世界中から寄せられた反響の声を追加してまとめたのが、本書です。
労働者層=貧困層だと誤解しがちなのですが、彼らは中間層で、貧困層ではありません。かつて、アメリカの製造業を支えた人々で当時は高い収入と終身雇用が保証され、大きな家、高級自動車を得て、海外旅行を楽しんだ人々です。グローバル経済の波がおしよせ、製造業の不振とともに職を失ったまま、今でもラストベルト(アメリカ中西部の閉鎖された工場がある地帯)に住んでいるのです。
著者自身は、エリート層のトップにいるような人間ですが、夫が労働者層の家庭出身であり、夫の家族との考え方の違いを経験しているため、分析に実感がこもっています。
労働者層にとって何より大切なのは家族で、理想的な家族像は昔と変わらず夫が働いて経済的な柱となり妻は家庭を守るというもの。彼らは体を動かして働くことや、何かを作り出す仕事に誇りを持ってきました。また、地域の知人たちとのつきあいを大切にするために、仕事を失っても簡単に引っ越すことができないのです。政治家、医師、弁護士といったエリート層のことは羨んでいるどころか「実体のない仕事」だと軽蔑しているいっぽうで、一から事業を起こして成功した富裕層は尊敬しているため、トランプのことは好きなのです。
彼らは性差別主義者だと思われがちです。実際に、肉体労働の仕事に女性が就くと、露骨な嫌がらせを受けることがあります。しかし家庭内に目を向けると、生活を支えるために働きに出ている妻に代わって、家事・育児を担っている夫も多いのが実態だそうです。いっぽう、エリート層の共働き家庭では、表向きは男女平等をうたっていても、実際は妻が仕事と家事の両立で疲弊しています。すべてが、日本の現状にあてはまるわけではないけど、身近な人々を思い浮かべ、腑に落ちることがたくさんある、そんな本です。(編集者)
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