
2月22日の朝日新聞7面(東京版)です。
「2040年大学進学者12万人減」という見出しの記事が出ています。文部科学省が、2040年になると大学進学率は伸びるが、18歳人口が減るので全体の進学者は今より2割減るという試算を示した、という記事です。
同じ記事のもう一つの見出しが、「文科省、初の詳細試算 進学率は女子も5割超に」です。その下には「女子の大学進学率は49.1%から56.3%まで伸び、全体でも52.6%から57.4%に上がると予測している」と書かれています。
少子化で大学進学者が減ることはよくわかります。進学率が上がることはいいことだとも思います。しかし、なぜ「女子も5割超に」なのですか。なぜ「は」ではなくて「も」なのですか。
文法嫌いな方もおられると思いますが、ちょっと助詞「も」のおさらいをしておきたいと思います。最新版の『広辞苑』第7版の「も」の項目を見ますと、
‥‥‥「は」と対比される語で、「は」が幾つかの中から一つを取り上げる(それ以外を退ける)語であるのに対し、「も」はそれを付け加える意を表す。
と書かれています。男子と女子の中から女子を取り上げていうなら「女子は5割超に」となり、女子を男子に付け加えるものとすると「女子も5割超に」になるということです。
要するに、この見出しは、男子の進学率が伸びるが、それに付け加える存在としての女子の進学率も伸びるのだ、ということです。あくまでも、男子が先・中心・主体で、女子は、それに付け加えるものという意識を映し出しています。いや、そんな主体とか中心とか考えていないけど、つい、出てしまった「女子も」かもしれません。
連日にぎやかな報道が続いていた平昌オリンピックで、「スピードスケートで女子選手も金」「カーリングで女性チームも大活躍」と言ったでしょうか。目の前で活躍している選手たちのことを伝える場面では、決して「女子も」「女性も」などとは言いません。いや、言えません。主体的に中心人物として活躍している女性たちですから、「も」ではなく「は」だったのです。「小平は500mで優勝」であり、「高木は金メダルを2個取った」のでした。
最初の見出しに戻ります。この見出しをつけた記者には、進学率のようなものは男子が上という思い込みがあるのでしょう。男性優位・男性本位の刷り込みがあるのです。だから、男子に付け加えて「女子も」と言ってしまった。しかも、1記者の思い込みだったかもしれないけれど、そのまま印刷されたことで、結果として朝日新聞の思い込みになってしまったのです。
女性は大学に行かなくてもいいとか、女性は管理職に向いていないとか、明らかな性差別は、さすがに新聞からはなくなっています。が、こうしたポロリと「も」をつけてしまうところに、まだまだ差別的意識は残っています。はっきりわかる差別語よりも、むしろ、こうしたそれ自体では差別とわからないことばのほうにこそ、根強い潜在的意識が残されていると言えるかもしれません。
たまたま同じ紙面に「男性も家に帰ろう」という見出しが載っています。ここにも「も」があります。「男性学」を教えている田中俊之さんへのインタビュー記事の見出しです。田中さんは「男性学」の立場から、ジェンダーギャップを解消するために、「男性も家に帰ろう」と主張しているのだそうです。
家のことを女性に任せたまま何もしない男性に「家に帰ろう」と呼びかける主旨には大賛成ですが、ここの「も」にも同じ問題があります。このキャッチフレーズは、
女性は家に帰る———男性は家に帰らない———それではジェンダーギャップは解消しない———だから、男性も家に帰るべきだ。
という意識構造から生まれたものです。ここでは家に帰る主体的存在は女性、男性はそれに付け加える存在です。主体は女性だ、主人公は女性だからいい、と喜んではいられません。「女性は家に帰る」という前提が、そもそも女性の決めたことではないからです。社会的・経済的に決められたことです。女性が自主的・主体的に選んだことではありません。家事のため、育児のため、介護のために「家に帰ら」ざるを得なくて、帰っているのです。
そういう前提を抜きにして「男性も家に帰ろう」と、のんびり言ってほしくない気もします。
いや、それよりもむしろ、「家に帰る女性」に男性を付け加える「も」を「は」にかえて、「男性は家に帰ろう」と言ってほしかった!!
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