チリ・サンティアゴに住むグロリア(パウリーナ・ガルシア)は58歳。12年前に夫と離婚したシングルマザーだが、息子と娘はそれぞれすでに独立しており、快適な家に一人で暮らす「おひとりさま」だ。定職をもち経済的なゆとりもある彼女は、休日にはヨガ教室やサークルに通ったり、夜には中高年の独身者たちが集うダンスホールに通ったりと活動的な毎日を送っていた。あるとき、グロリアはダンスホールで出会ったロドルフォ(セルヒオ・エルナンデス)と意気投合し、一夜を共にする。彼女は単なる遊びのつもりだったが、グロリアに夢中になったロドルフォが正式な交際を申し込んできた。元海軍将校の彼は、今は企業家で経済力もある。1年前に離婚しており、グロリアと同じバツイチだ。始めは交際に乗り気ではなかったグロリアも、彼の熱意にほだされ、次第に二人の関係をオープンにしたいと思うようになる。ところがロドルフォは「この年で恋愛など笑われる」と消極的だ。さらには彼の、元妻や娘たちとの共依存的な関係がグロリアを戸惑わせることに――。
子どもたちが巣立って一人になったグロリアは、手にした自由の裏側にある寂しさの穴の埋め方を試行錯誤する。心の向くまま、車中大声で歌ったりクラブで踊ったりセックスしたりお酒を飲んだり飲み過ぎたりと、自由に「わたしの人生」を選ぶ姿はとても魅力的だ。そんな、エネルギッシュで自分の欲求に正直なグロリアが、自分とは反対に真面目で物静かなロドルフォに心動かされ、この人とならわたしは上手くやれるのかもと、そうじゃないサインが出まくっているにも関わらず浮かれてしまうところが面白い(まさに青春!?)。そして、いったんは恋に目が曇ってしまったグロリアが、自分とかみ合わないロドルフォに何度も苛立ち、決定的な出来事のあとブチ切れて仕返しをする物語のラストも痛快だ。
かなり痛い目に遭いながらも、相手の「しょうもなさ」とともに舞い上がった自分のバカさ加減も笑い飛ばすグロリアの前向きな生き方を見ていると、いくつになっても「青春」を選べる自由があるって悪くないなぁ、と思う。事実、グロリアの人物設定は青春時代を謳歌できなかった世代の一人、ともいえるからだ。物語の舞台、チリでは、1973年に軍事クーデターが発生し、元政権派左翼と見なされた人々は根こそぎ逮捕、監禁、拷問、殺害された。そこから1990年まで軍による政治介入が行われており、人々の自由を奪われたその時間は、ちょうどグロリアの10代後半から30代に重なる。映画の途中、ボサノバの名曲「三月の水」が歌われる(とても素敵なシーンです!)。絶望の中にも春が来る手触りや喜び、希望をうたうこの曲の場面は、どこか、グロリアの生きてきた時代と重なって映る。
ウンベルト・トッツィの『グロリア』(ローラ・ブラニガンの1982年のヒット曲の方が有名かと思いますが)に合わせて、キラキラの服を身にまとい踊るグロリアを演じたパウリーナ・ガルシアは、この作品で2013年、第63回ベルリン国際映画祭銀熊賞・主演女優賞を受賞した。この、グロリア「の青春」を輝かしく切り取った『グロリアの青春』は、近くハリウッドでリメイクをされるそうだ。セバスティアン・レリオ監督が同じく指揮を執るという。主演はジュリアン・ムーア。今度のグロリアは、どんな音楽で踊り、愛をかわし、お酒のグラスを手にするのだろう。作品の完成が、今からとても楽しみだ。(中村奈津子)
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