
前回、「帝王切開について話すこと」のモヤモヤを書いた。今回は、逆子による予定帝王切開の、おそらく「わりと楽だった」タイプの一体験談である。出産を控えた人や、帝王切開での出産が身近にあった人が、どんなことが起こる/起こったのかを知る参考になればと思う。
「手術の日どり、とりあえず押さえましょう」。手術の日つまり子どもの誕生日は、手術室の空き状況と人員の確保という事務的な理由で決まった。そうか、予定帝王切開ってそういうものだったのか!「誕生日は特別な日」という幻想が一つ崩れた(なお、私の血圧が上がりすぎて急に1日前倒しになったので、必ずしも「予定通り」でもない)。
当日、車椅子で手術室に運ばれながら、ドアや器具などを見ては「あっ、テレビで見たことあるやつ…」と必死に自分を面白がらせていたが、正直にいえば怖かった。赤ちゃんに会える、それはいいけど一体何が起こるのか?痛いのか?どうすればいいのか、とはいっても基本的には何もできない…。
手術台に乗るといよいよ本当に「まな板の上の鯉」。今からさばかれる…!緊張する中で少しほっとしたのは、オルゴール調の音楽をかけてくれていたこと。
「何と言っても問題は麻酔…」と私は構えていた。帝王切開は通常、意識のある部分麻酔で行われる。「麻酔の針が痛い」「効きすぎると意識も朦朧とするし後が辛い」「効きが悪くて、あれは切腹だったと言ってた人がいる」などと聞いていたからだ。
幸いなことに、大きなお腹を必死で丸めながら背中に刺された麻酔の針は、嫌な感じではあったがさほど痛くはなく、効きもちょうど良かった。麻酔医さんはあちこちに冷たい物を当てて麻酔の効きを確かめながら、「始めるときには言いますからね」と言っていたのに、どうも気がついたときには始まっていたらしい。ドラマで見た「それではオペを開始します」みたいなやつ、ないの?見逃しただけ?
術中は、何もすることがない。腹部には布が立てかけられて何も見えず、ただもぞもぞと感触だけがあり、たまに体が小さく揺れる。一体何をしているの…?見たくはないけど、少しは知りたい…。一度は「押しますからね!」と言われて腹部をドンドンと強く押された。赤ちゃんも、私のお腹の切り口も、こんなふうに押されて大丈夫なものなのだろうか…?ヒヤヒヤするがもちろん何もできない。
そのうちに「もうすぐ出て来ますよ」と言われ、「ふぇ~」とか細い産声が聞こえた。よかったちゃんと泣いてる、けどイメージよりだいぶ弱い声だなぁ…。少しだけ対面がかない、「こんなに小さいなんて!」と思った。
赤ちゃんが連れていかれ、そういえばこの後は…?と思ったところで、麻酔医さんににこやかに告げられた。「ここから先は意識がない方が楽なので、消しますね。点滴打ちます」。ありがたいけど、意識消しますねって…怖いんですけど…と驚いていたらもう意識はなく、気がついたら手術室を出てストレッチャーで運ばれていた。
手術室に入ってから出てくるまで2時間程度だった。
手術を終えた後は、意識はあるがかなりぼーっとしていた。下半身はほとんど動かない。お腹は確かに小さくなっているが、元戻りではなくまだ大きい。痛みはないが、不快ではある。
それでも日中は夫や家族がいてくれて気が紛れたが、夜は長かった。
脚をマッサージする血栓防止のポンプの音を聞きながら、本当に子どもがここから出てきたのかなと思いながら、簡単には眠れずに時計の針が進むのを待つ…ふっと意識が途切れてまた気がつく、時計を眺める…そんなふうに当日の長い夜を明かした。
そして翌日からは起き上がって動くように言われるのだが…下半身が重い、鈍痛がある、力が入らない。背中を折り曲げてゆっくりそろそろ動くのが精一杯。行きなさいと言われて這うようにしてトイレに行っても、麻酔の影響で自力で排尿もできない。
これが、私の、体なの?私は再び身軽に歩いて走れる身体に戻れるんだろうか?
この数日間はしんどかった。ただ、友人のアドバイスに従って、痛いかもしれないと思った時にはすぐさま薬をもらったせいか、痛くて痛くて…とはならなかったのは幸いだった。しんどいと言いつつも徐々に回復し、手術後5日目頃から急に楽に歩けるようになった。
シャワーの許可が出たとき、まだ自分の目で見ていなかった手術部分がなんとなく怖くて聞いた。「あの、切ったところもシャワーかけて大丈夫なんですか?」看護師さんは「大丈夫です、強くこすらなければ。…まあ、怖くてこすれないと思いますけど」と笑った。ええ、そんなこと絶対にしません!
対面した手術痕は、下腹部ギリギリのところにある横切りの「切れ目」で、糸で止まっていた。血も出ておらず、特別な痛みもなく、シャワーをかけても平気だとは…と正直驚くような生々しい「切れ目」だった。
この術痕は、いつのまにかきれいにくっつき、今では目立たない線になっている。
「醜い傷跡」でも「勲章」でもなく、ただの線。それは、私の体験の感想とも近いかもしれない。帝王切開だから残念なのでも、誇らしいのでもなく、ただこういう経緯を経ただけ。子どもが無事に産まれ、私も回復できてよかった、ただそれだけだと私は思っている。
■ 小澤さち子 ■
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