
本書の紹介前に、まず私にとって有史社会で最初の男性フェミニストは聖書「四つの福音書のなかに登場するイエス」であったことを書いておきたいと思います。そのイエスがフェミニストであると知るきっかけが、本著作者、横田幸子さんとの出会いでした。彼女とは教会での説教だけではなく、師であると同時に友としてのかかわりにおいて、まさにフェミニストの在りようといったものを手渡していただいたと思っています。ゆえに、この説教=『神と向き会って生きる』を、WANには非クリスチャンが多いだろうことを承知しつつ、それでもなおフェミニストの同胞たちへ紹介させていただくものです。
実は、詳細は述べられませんが、1988年に女性信徒で「教会女性会議」を立ち上げました。この組織は日本において、キリスト者女性たちが、圧倒的に多数である男性牧師からの受け売りではなく、フェミニズムの視点から聖書を読みなおそう、というムーブメントの始まりだったのだといえます。そして横田幸子さんは、その主要なメンバーの一人でした。引退されていますが、85才の現在、お元気で活躍をしておられることを追記しておきます。
さて、ここから少し私事に踏み込ませていただきます。私が1983年に日本基督教団大泉教会で受洗してからの26年間、横田幸子牧師の説教は、この世の生き難さに呻吟し続けたわたしにとって、まさに命の水でありました。1999年に先生は長野県の塩尻アイオナ教会に移られ、説教が聞けないことが辛くて、年に一、二度、かの地での礼拝に出かけました。スカルの井戸に水を汲みに来てイエスと出会った女が、「このひとこそメシア」と即座に信じ、走って村の人々に伝えたように、私も、「横田幸子さんの説教を聞くと元気が与えられて、辛い職場でもやっていけそう、という気持ちが湧いてくるの。あなたも聞いて」という思いをこめて、出席できなかった日の説教の原稿を預かってパソコン入力をさせていただき、他教会の友人へコピーして送りました。受けとった方には大変喜んでもらえました。昨年3月に引退なさる前の2年間には、以前から送付していた方々とは別に、カトリックの教会員の方や、クリスチャンではないけど読みたいから送って、という方など10余人の新たな希望者に、入力後、メールで送るようになっていました。そんななか、入力しながらこんな素晴らしい説教は「横田幸子説教集」として何としても出版されてほしい、という願いが心から去らないようになったのです。
1988年に、幸子さん(大泉教会では夫君の勲牧師とともに牧会なさっていたので、わたしたち会員は勲さん、幸子さんと呼んでいたのだった)も、既述のように呼びかけ人の一人となって開催された教会女性会議で出会った友人たちも「幸子さんの説教をたくさんの人に読んでもらいたい」との思いを抱かれていることを知り、さらには数年前信徒になられた河野貴代美さんも「本を出しましょう」とすぐさま幸子さんに働きかけられるという早業でした。幸子牧師のお話に登場するイエスは、まるで、立ち上がってわたしの方へ歩み寄ってくださるような迫りを感じさせ、同時に主イエスが生きられた時代への想像力を喚起させられるのです。聖書を「座右の書」としてではなく、また「自己啓発本」でもなく、イエスの物語として心で感じつつ場面を想い描くとき、今日の私たちの直面する困難な状況に重ね合せ、そこから歩み出す勇気をいただいてきました。クリスチャン・ノンクリスチャンにかかわらず、本書をお手に取っていただき、そこから「何か」を受け取っていただきたいと願っております。(大野季子)
『神と向き合って生きる』
著者:横田幸子
出版社:新教出版社
発行年月日:2018、1月
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