ケース1
離婚して私は婚姻前の氏に戻りました。私が子どもの親権者になりましたが、子どもは氏を変えたくないと言っています。
ケース2
調停で、子どもの親権者は父、監護者は母である私となりました。子どもの氏を私の氏と同じにできますか。
ケース3
離婚の際、子どもの父が親権者となりましたが、彼はその後亡くなり、彼の父(子の祖父)が子どもと同居し、面倒をみています。母である私は、親権者変更の審判を申し立てたところ、認められました。その後、子どもの引渡しの調停を申し立てましたが、不成立になりました。私は、別途、子どもの氏の変更の審判を申し立てました。
◎子の氏の変更とは
子どもが父または母と氏を異にする場合には、子どもは家庭裁判所の許可を得て、父または母の氏を称することができます(民法791条1項、家事事件手続法160条2項)。必要書類を用意していたら、即日審判を出してもらえる、簡単な手続です。実際、離婚後単独親権者となった親の氏に子どもの氏を変更する場合がほとんどだと思います。
とはいえ、変更することができるだけで、親権者や監護者が単独になったからといってどうしても子どもが氏を改めなければいけないわけではありません。殊に子どもが成長し、自分の氏に愛着を抱いているのなら、子どもの意思を尊重してもいいでしょうね。家事事件手続法(65条)上、子どもの意思をその年齢及び発達の程度に応じて把握するよう努めることになっています。15歳未満の場合、法定代理人が子どもに代わりこの手続を行います(民法791条3項)。
ケース1の場合、お子さんの年齢によりますが、話し合ってもなかなか改姓に賛成しないなら、お子さんは氏を改めなくてもいいでしょう。
◎親権と監護権が分属している場合
離婚後親権と監護権を分属させないケースがほとんどですが、分属させた場合、子どもの氏はどうなるのでしょうか。
ケース2のもとになった釧路家裁北見支部昭和54年2月28日審判家月31巻9号34頁は、2歳の子どもについて、親権者は父、監護者は母とする調停が成立した後、母が子どもの氏を父の氏から母の氏に変更することを申し立てました。裁判所は、「監護権を有する父母の一方が現実に監護養育している子に対し自己の氏を称させることとする措置を講ずることは、明らかに右の監護権の範囲内にあるものであって、この監護者に子の氏の変更審判の申立代理権を肯定することが、子の利益を主眼とする民法766条の法意に合致するものと解される」として、申立てを認めました。
◎親権者が死亡した場合
ケース3のもととなった福岡高裁昭和48年7月17日決定家月26巻1号31頁は、親権者である父が死亡後、親権者変更の手続により母が親権者になったものの、子どもとは同居しておらず、引渡しにも子どもが応じず、祖父や叔父と引き続き同居することを希望しているという事案でした。
決定は、「子が改氏をしようとする親と共同生活関係にあることは、改氏の許否を決するにあたり積極的な理由になるというべきところ逆に共同生活関係にない場合には、改氏によつてもたらされる利益等の特別な事情がなければならないと解するのが相当である。」として、本件はそのような特別の事情は認められないとして、氏の変更を求める申立てを却下した原審判は相当として、母の抗告を棄却しました。
もっとも、同様に離婚後親権者母が急死し、母方の伯父が引き取っている子どもについて、親権者変更により親権者となった父からの氏の変更の申立ては、いずれ近い将来に父と同居することになること等を挙げて、認めたものもあります(東京高裁平成10年1月19日決定家月50巻6号77頁)。
2018.05.18 Fri
カテゴリー:打越さく良の離婚ガイド / 連続エッセイ
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