
1980年、『性別役割分業』という言葉に出会ったときの私の頭の中はこの本に描かれているヴィクトリア朝の女性たちと大差なかった。
愛らしくも辛らつなイラストに添えて書かれた『かって世界には女性が存在しませんでした』『当時の女性たちは家庭の玉の中で生きていました』『玉の中で女性たちは育児、床磨き、シーツやカーテンの洗濯、ボタン付け、採炭など、大して大変じゃない仕事していました』『女性は(中略)何の資格も取得できませんでした。あたまが小さかったからです』が、30年、私の行動を肝心なところでひっくり返してきた自己嫌悪と深いあきらめの正体だと思う。
必死にパートタイマーで働いても男たちの稼ぎには遥かおよばず、『食う』ために必要な額を手にするためには何倍もの単調で屈辱的な労働を続ける必要があり、経済的自立なんて私にできる訳がない、と疑うことなく思い込み、通い始めた大学を第2子妊娠で疲労困憊して辞めるしかなかったのも、自分の計画性のなさだと思い、すごすごと専業主婦に戻って行った。
その後、公民館活動の中で多くの女性たちに会い、その体験と活動の話を聞き、必要に迫られて文章を書くようになり、自分のせいで、働き続けられなかったのではない、主婦であることを選んだのではなく他の選択肢がないと思い込まされていたのだと、言えるようになる。女が当然のように担わされてきた育児介護家事の経験を仕事にし、食える報酬を支払えるようにするために介護保険事業に参入したのはフェミニズムとの出会いの結実だと思っている。
今、私の娘たち世代は子育てと仕事を抱え、あるいは『両立』の罠から逃れるべくひとりで生きる暮らしの中で私たちとは異なる困難な問題に向き合っている。彼女たちにヴィクトリア朝のばかばかしいまでの女圧殺の思想が今も女たちを縛っていることを識ってほしいと祈る。
■渋谷路世(しぶやみちよ)特定非営利活動法人野の花ネットワーク事務局
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