フィギュアスケートとジェンダー-ぼくらに寄り添うスポーツの力

著者:後藤 太輔

現代書館( 2018-04-15 )


 フランスのデザイナー故イブ・サン=ローランはアルジェリア戦争で徴兵され「男らしさ」を求められた。それに答えられなかった彼はうつ病を発症し除隊、精神病院へ収容され、以降薬物依存に苦しめられることとなった――。

 くまのプーさんのティッシュカバーをリンクに持ち込む羽生結弦に熱狂し、出場選手各国の国旗を競技会場に持参するスケオタ。「カワイイ」男性選手の写真をSNSで共有するファンは、国威発揚や「男らしさ」を銀盤に求めていない。
 衣装など、ジェンダーロールがくっきり分かれているように見えるフィギュアスケート。LGBTの選手、コーチ、振付師も活躍し、スポーツの中では女性参加も早かった(1902年のマッジ・サイア―ズが初)。男性選手の育成に多くの女性が貢献しており、実はジェンダーバイアスが少ない競技ではないだろうか?
 そんなフィギュアスケートを切り口に、朝日新聞現役記者がスポーツと社会の繫がり方を考える新しいスポーツジャーナリズム。
 オシム元監督の哲学から学ぶ民族融和や子どもの貧困に向き合うNPO団体など、さまざまな事例を丁寧な取材で紹介。
「安藤美姫らに見る女性アスリートと産み育てる性」や「女性差別と闘うヒジャブをまとったフィギュアスケーター」など、フェミニズムの入り口となる項はWAN読者におすすめ。

 著者は2010年の大阪2児餓死事件の取材で、子どもの力になるスポーツ記事を意識するようになった。そんな著者の社会的弱者への想像性が伝わってくる一冊。

 日大アメフト選手の危険な反則行為で日本社会の縮図が露呈し、ジェンダーギャップランキング114位の日本で、2020年東京五輪パラリンピックをどう迎えるか?
 性差別、ヘイト、パワハラ、暴力、障害者問題など、スポーツは社会の課題を映す鏡であると言える。中高生や教員にもすすめたい「自国ファースト」とは無縁のスポーツ文化論。

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