2018年6月16日(土)、堺市で開かれた『わたしを生きる知恵』出版記念イベントに行ってきました。定員100名ほどの会場が満席となる、大盛況でした。登壇者の皆さんの珠玉の言葉が詰まった、ぜいたくな3時間!わたしが受け取った熱気だけでもお伝えできたらと思い、ご報告します。当日の録画が、インターネット報道メディアIWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)で視聴できます(IWJのHPはこちら)。ぜひ、そちらにもアクセスしていただければ幸いです。
<第1部:河野貴代美インタビュー「80歳のフェミニストカウンセラーからあなたへ」(インタビュアー:小川真知子)>
前半は、河野貴代美さんへのインタビュー。現在、NPO法人SEANの理事長でもいらっしゃる小川真知子さんがインタビュアーをつとめられました。河野さんからは、彼女のフェミニズムとの出会いや、その後1980年に初めて日本に紹介されたフェミニストカウンセリングの実践についてなど、『わたしを生きる知恵』で書かれていたことのエッセンスを、そこには書かれなかったエピソードも交えてお話しいただきました。わたしにとって新鮮な、得がたい経験でした。これまで、河野さんのご著書を何冊も読み(実は20代に読んだ、森瑤子の小説『夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場』がきっかけ!)、今はWANの「お助けWAN(こころの相談)」でご一緒に活動をしているのにも関わらず、お話しをお聞きするのは初めてだったのです。
印象に強く残っているのは、フェミニズムの中で生まれた「CR(consciousness-raising:意識高揚、あるいは意識覚醒。共通のテーマをもとに各々の体験や感情を語り合い、聞き合うグループワークのこと)」の根底にある、「語ることの力」についてのお話です(詳細の内容はぜひ、ご著書をお読みください~)。「語ること」をめぐって紡がれる河野さんの言葉は、驚くほど強く、心に響きました。わたし自身が30代でフェミニズムと出会い、まさに自分の言葉を獲得しようともがき始めたころの生きづらさの記憶と重なり、涙が溢れそうでした。
インタビュアーの小川さんは、河野さんがフェミニストカウンセリングに社会教育や福祉の視点を導入されたことにも触れつつ、現代の、セクハラや性暴力など女性への差別的な言動・暴力がなくならない時代において、これからのフェミニストカウンセリングがどうあるべきか、あるいはフェミニズムへの共感をどのように社会に広げていけるか、といった課題提起をされ、後半の対談へとつなげられました。
<第2部:対談 岡野八代×河野貴代美「今こそフェミニズムを!」>
河野さんの著書『わたしを生きる知恵』の中では、政治学者の岡野八代さんが、母親との関係や自分自身のセクシュアリティについて、きわめて率直に語られていて衝撃を受けましたが、今回の対談でも、岡野さんの、その率直な語りは健在でした。…というよりも数段、パワーアップしていらっしゃる!?その理由は、留学されていたパリから多くの刺激を受けて戻られたばかりだということ、加えて、帰国した日本には、政治の混乱を含めて性暴力や差別、フェミニストたちへの攻撃的な言動が後を絶たず、「するべきこと、闘うことが山ほどある」からだとおっしゃっていました。そんな岡野さんを包むように、会場からは大きな拍手が!
岡野さんは、政治を学ぶ中で出会った「フェミニズム」や「ケアの倫理」について語られました。そして「政治の世界にはフェミニズムの視点、あるいはケアをとおして見える、目に見える形で差し出されている人間の根源的な弱さ・多様性への眼差しが欠けている」と、現在の政治(と、政治への考え方)のあり方を問うていくことの必要性と、女性たちがもっと政治にかかわり、政治を語る必要性を訴えられました。その他にも、河野さん、小川さんを交えてのトークでは、フェミニストカウンセリングの成果と課題、ハラスメントに非常に「寛容な」日本について、あるいは家族との関係性など、話題は尽きませんでした。力強く、しなやかな3人の「語り」に触れてすっかり気持ちが高揚し、わたしも、拙くとも自分の言葉で「語る」こと、社会がより良い方向に進むよう動き、声を挙げることを諦めないようにしようと強く思いました。
著書のタイトルどおり、フェミニズムとは「わたしを生きる知恵」。そしてフェミニストカウンセリングは、「わたしを生きたい」と願う他者が必要なときに寄り添い、その人が自分の声と言葉で「語ること」を支え、共に自己変革の先にある社会変革の道を歩くこと。今回、その思いを共有する温かな時間を過ごせたことに、心から感謝しています。(中村奈津子)