*本稿は、米田佐代子さんの書評「もうひとつの『#Mee Too』または『#With You』の問い――茶園敏美著『もうひとつの占領―セックスというコンタクト・ゾーンから」に対するリプライとして書かれました。そちらも併わせてご覧下さい。

 パンパンと呼ばれた女性たちにこだわり続けることができたのは、米田佐代子さんのおかげです。
 この研究に着手してまもない頃、ある女性史の分科会で報告させていただいたとき、 長年、女性史研究に携わっていらっしゃる方々から反発の声があがりました。パンパンといわれた女性たちと同世代の方々で、「彼女たち(=「パンパン」といわれた女性たち)の存在は許せない」、「そんなことを調べてどうする」という声でした。怒りに身を震わせ、席を立って糾弾した女性もいました。何がどうなっているのかわからず、会場の反応に呆然としたことを、いまでもはっきり覚えています。
 このとき、同じ分科会に参加されていた米田さんがすっとたちあがって、発言なさいました。
「この研究のどこが悪いのですか」。
 米田さんの凛とした一言で、騒然となった場の雰囲気はたちまち落ちつきました。
 懇親会では、わたしの研究に興味を持たれた方々に励ましていただきました。この方々も、パンパンといわれた女性たちと同世代でした。  パンパンといわれた女性たちは社会でタブー視されていることを、後で知ることとなりました。米田さんがこの分科会に参加されていなかったら、彼女たちの研究を続けていたかどうか、自信がありません。
 パンパンといわれた女性たちに関する研究で博士号を授与されたとき、米田さんに直接お礼を述べたかったのですが、なかなか米田さんとは出会えませんでした。
 その後、初めてD-WAN(ミニコミ図書館関係部門)の会議に出席したときに、米田さんに再会しました。米田さんは、D-WANのメンバーでした。10年以上の歳月を経て、ようやく米田さんに直接お礼を述べることができました。

 ところが、米田さんに再会できた喜びが、冷や汗に変わった瞬間がありました。それは、初稿原稿を上野千鶴子さんにみていただいて、後日上野さんから、赤いペンでびっしりと問題点が書き込まれた初稿原稿を受け取ったときです。気を引き締め直して原稿にとりかかり、初稿原稿から2年以上かかって(ほぼ3年)、ようやく『もうひとつの占領』を刊行することができました。
 拙著の帯には、上野千鶴子さんのお名前が特筆されています。その大きな理由は、パンパンというテーマがいまだに日本でタブー視されているからにほかなりません。日本のジェンダー研究、セクシュアリティ研究の牽引者のおひとりである上野さんのお名前を目にして、拙著を手にとってくださる方もいるでしょう。もしかすると、パンパンと呼ばれた女性たちが手にとってくださるかもしれません。将来的に、「上野千鶴子」を帯に小さく表示できる日が来ることを、願わずにはいられません。
 今も異議申し立ての声を上げ続けることができるのは、米田さん、上野さんといったフェミニズムの大先輩のサポートのおかげです。これからもずっと異議申し立ての声を上げ続けるとともに、これからは大先輩から受けた恩恵を次世代の方々へPAY IT FORWARD(恩送り)することをこの場で誓うことで、米田佐代子さんへのリプライに代えさせていただきます。ありがとうございます。今後もどうぞよろしくお願い申し上げます。

◆『茶園敏美著『もうひとつの占領―セックスというコンタクト・ゾーンから』 茶園敏美著 インパクト出版会 定価2400円+税