
こころの問題は心理学に聞けばいい? フランス人の作家ミカエル・フェリエの『フクシマ・ノート』(新評論、2013年)を、トラウマと悲嘆(グリーフ)研究が専門の心理学者、富田拓郎はどう読んだのか? そして被災地支援活動を継続的に行っている精神科医、山科満は、「人間」に対する心理学と文学の異なるアプローチをどのようにつなぐのか? 音楽あり、朗読あり、笑いありの二時間半のトーク・ショー(2016年11月24日に中央大学文学部で実施)の記録です。私は、文学テキストと現実社会の複雑でダイナミックな関係に興味を持つ文学研究者・文学表現者として、コーディネーターと司会をつとめました。
三人の著者のやりとりの一部をご紹介しましょう。
富田「大きいトラウマを乗り越えようとして表現活動を行うと、思わぬ小さなトラウマが現れて、症状が慢性化する危険がある」
フェリエ「誰がトラウマの大小を決めるのか? アートセラピーの可能性はないのか? 人は受け身ではなく、自ら積極的に生きることで、人として生き延びることができる」
山科「震災後のことをやっと語れるようになっても、まだ震災前のことや震災の日のこととつないで語れない人が多いのは、自己防衛なのかもしれない。でもやはり、物語はできていく。喋っているたびに違うことが出てくるような物語になったときに、その人は本当に健康が回復したと言える」。
治療を目的とする心理学者がさまざまなものをつなぐことに慎重である一方で、生きる喜びを味わい尽くそうとする文学者は、異なるものや一見関係のないものを次々につないでいき、それを現在の問題を考察し、未来を切り開く力に変えていきます。しかし、両者に共通するのは、感じ方も体験も異なる他者と向き合いたいという誠実な思いでした。
気軽に読める一冊です。付録には、詩的で知的で科学的、軽やかで官能的で深い思考にも誘ってくれる『フクシマ・ノート』の紹介文も転載しました。このささやかな一冊を通して、自分のまわりでもこのような議論と協同の試みをしてみようかというお気持ちが生まれれば、これにまさる喜びはありません。
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