
聞くともなくテレビの声を聞いていて、突然耳に突き刺さる声にはっとすることがあります。若い女性の甲高い早口の話し方です。イベントとか新商品の紹介、珍しい場所へ行った時の報告などの話し方です。
おはようございまーす、
今朝わたしがお訪ねしている○○はですねー、若い高校生から80歳を過ぎたお年寄りまでですねー、みなさん、こーんなに仲良く、お元気に和気あいあいと街づくりのために活動していらっしゃいましてー
のような、調子です。
他の用事をしていてまともに聞いていないかもしれない視聴者の耳をなんとか引きつけたいその気持ちはわかりますが、中身を聞く前にその声と話し方で「もう、いいや」と思わされてしまいます。
まず、こういう番組を作る側のことを考えてみます。こういう番組で話すのは、若い女性がいい。話し方は早口、声は高い方がいい。高い声で早口で話すと元気そうに聞こえる。聞いている方も元気が出る。視聴者は、そういう女性の話し方を求めている。
といった思惑なのではないでしょうか。もしかしたら、若い女性に活躍の場を与えていると、勘違いもしているかもしれません。
「若い女性の高い声がいい」にはいくつものジェンダー差別があります。ひとつは「若い女性」です。若い女性も若くない女性もいる中で、決まった冠詞のように「若い」とつけるのは、半数以上の若くない女性を否定するという侮辱と差別です。「女性の高い声がいい」に対しては、これまた、対する「低い声」の人への侮辱です。
聞く人が高い声の方が好きなんだから、つべこべ言うなと言われるかもしれません。聞く人の好みだって、絶対的なものではありません。いつもいつも高い声を聞かされていると、それに慣らされて気にならなくなる人が多いのです。権力がいかに世論を操作して来たか、ヒトラーの例を引くまでもなく、民衆は操作されやすいのです。
しかも、若い女性の高い声を聞くと元気になる人ばかりではありません。高い声はキンキンして耳障りだ、気分が悪くなるという人もいます。若い女性でも若くない女性でも、高い声の人も低い声の人もいます。高い声が好きな人も嫌いな人もいます。何でも一方的な思い込みはよくないのです。
もうひとつ気になるのは、「高い声で早口でたたみかける」女性の話す内容です。彼女たちは、自在に言葉を操って、いかにも活躍しているように見えます。そうでしょうか。その話し方で何を伝えようとしているかが問題でしょう。話し手だけが、その場の雰囲気にのまれて興奮して、一方的な感動を押しつけようとしているのではありませんか。通り一遍の大げさな誉め言葉で相手を持ち上げて、その場を盛り上げようとしているだけではありませんか。そういうのをキャスターとしての活躍と言いますか。
制作者側の思惑が透けて見えます。若い女性キャスターは、ただ明るく甲高く元気そうに話すだけでいい、それで周りが明るくなれば十分だ、それが彼女たちの武器だから、それを発揮させればいい、それが「女性活躍」だ……。
まさに「女性活躍」が女性蔑視の裏返しになっていませんか。
そして、そこに登場する女性にも言いたいです。若いうちはそれでいいという考え方もあるかもしれません。「おじさんたち」を利用して、若さを売り物にしてどうしていけないかと言われるかもしれません。でも、それは甘すぎます。今の日本の「おじさんたち」は、表面利用されているように見せても、実際はもっともっとしたたかです。若いあなた方が利用できるとしたら、その何十倍もの力であなた方を利用します。
厳しい言い方になりますが、「若い」ときだけ持ち上げられてちょっといい思いをすることが、将来の自分に何をもたらすかを考えてみてください。すぐに使い捨てになる自分の近い将来が浮かびませんか。自分の将来だけでなく、次から次へと出て来る後輩の女性が同じ道をたどることも考えてみてください。
要は、わたしたち女性自身がもっともっと賢くなることです。一時の華々しい「活躍」は、制作者側の期待に沿っていればいるほど、はかないものです。制作者たちは、また次の若いキャスターを見つけて「活躍」させます。そういう仕組みを見抜くことです。
きょうもテレビの「若い女性の高い声」に、辟易しながら思います。わたしたち自身が賢くなって、「おじさん」たちの思惑や仕組みを見抜いて抵抗し、他の道を探す以外に、日本の女性が本当に「活躍」できる場はないのだと。
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