
2018年度前期、和光GF読書会では、多くの論考を読んだほか、性暴力を法学的視点から考える機会をもち、さらに関連するアメリカ映画を観てのディスカッションなど、多様な活動をしてきました。そのなかから、今年度の通年テーマ「日本のフェミニズムの代表作品を読む」を中心に報告します。
(写真は 7月、ディスカッションの素材の映画鑑賞@和光大学ジェンダーフリースペース)
【日本のフェミニズムの代表作品を読む 戦前編】
読書会を主宰する井上輝子・和光大学名誉教授のオリエンテーションのもとに、前期は明治・大正期および昭和の大戦期までに発表、あるいは戦前の日本社会のあり様をテーマにした作品29編を、5つのテーマ別に読みました。
【読書会で輪読した文献】
1 女性解放の産声
① 岸田俊 「同胞姉妹に告ぐ」『自由の燈』(1884年)
② 平塚らいてう「原始女性は太陽であった」『青鞜』創刊号(1911年)
③ 与謝野晶子「そぞろごと」『青鞜』創刊号(1911年)
④ 伊藤野枝「新しき女の道」『青鞜』(1913年1月号)
2 愛と性
⑤ 平塚らいてう「独立するについて両親へ」『青鞜』4巻2号(1914年)
⑥ 生田花世「食べることと貞操と」『反響』(1914年9月号)
⑦ 安田皋月「生きること貞操と-『食べることと貞操と 』を読んで」『青鞜』第4巻11号
⑧ 伊藤野枝「貞操についての雑感」『青鞜』第4巻11号 (1914年12月)
⑨ 山田わか「堕胎について」『青鞜』第5巻8 号(1915年2月)
⑩ 山川菊栄「性的犯罪とその責任」『女性』1928年2月号「資本主義の性的犯罪」より
⑪ 山川菊栄「産児制限問題」『女の世界』1921年1月号
3 母性保護論争
⑫ 与謝野晶子「女子の職業的独立を原則とせよ」『女学世界』第18巻1号(1918年1月)
⑬ 与謝野晶子「女子の徹底した独立」『婦人公論』第3巻3号(1918年3月号)
⑭ 与謝野晶子「粘土自像:平塚さんと私の論争」『太陽』第24巻7号(1918年6月)
⑮ 平塚らいてう「母性保護の主張は依頼主義か」『婦人公論』第3巻4号(1918年5月)
⑯ 山川菊栄「母性保護と経済的独立―与謝野、平塚二氏の論争」『婦人公論』(1918年9月)
⑰ 高群逸枝「恋愛創生」高群『恋愛創生』万生閣(平凡社)(1926年4月)
4 労働と政治
⑱ 市川房枝「婦人参政権運動の婦人運動に於ける地位」『婦人公論』第10巻3号(1925年)
⑲ 市川房枝「全国市町村長会の婦人公民権反対論に駁す」『婦選』第4巻12号(1930年12号)
⑳ 奥むめお「婦人生活の基本を論ず」『婦人運動』第13巻4-5号(1937年)
㉑ 山川菊栄「無産政党と婦人の要求」『報知新聞』(1925年10月)
㉒ 山上喜美恵「農村婦人と家族制度」『未来』(1926年)
5 全体主義と女性
㉓ 高群逸枝「たおやめ」『日本婦人』(1944年1月号)
㉔ 市川房枝「国際平和と婦選」『婦選』第5巻11号(1931年)
㉕ 市川房枝「婦人は民族の母」市川房枝編著『戦時婦人読本』(1944年)
㉖ 宮本百合子「祭日ならざる日々」(1937年)
㉗ 加納実紀代「銃後の組織化 - 国防婦人会を中心に」加納実紀代『女たちの<銃後>』
㉘ 金英姫 「忘れることが優しさか―従軍安婦問題、在日としての接近」『世界』(1991年10月)
㉙西川祐子「戦争への傾斜と翼賛の婦人」、女性史総合研究会編『日本女性史』5「現代」、東京大学出版会(1982年)
【戦前の「代表作品」から学ぶこと】
はじめのテーマは、「女性解放の産声」。なんといずれも100年以上前の論考です。その後はテーマごとに、「愛と性」(7編)、「母性保護論争」(6編)。「労働と政治」(5編)、「全体主義と女性」(7編)を順に輪読しました。
作品のいくつかは、学生のころに歴史の授業で習い、作者名や作品タイトルだけを知っていたものでした。いつかは読みたいと思いながらも手をつけられずにいた女性解放に関する「古典」的作品に、今期読書会のおかげで出会い直すことができました。これまでも読書会では、高群逸枝や田中寿美子らの生涯について学習し、論考を読んできました。それとは違い今回は、多くの論考をテーマ別に読み、先駆者の業績をもとに、議論を深めることになりました。「古典」ゆえ、文体などに戸惑うこともありましたが、個々の作品を時代背景に照らして読み解いていく過程は、とても楽しいものでした。
「愛と性」「母性」「労働」「政治」は、いずれも今日まで課題であり続けるテーマです。「全体主義」もしかり。100年もの時を経て、何が変化し、何が変化していないのか。読書会でオリエンテーションも交えて古典を読むことで、これまでの「女性解放」の歩みを振り返ることもできました。また、「論争」をまとめて読むことで、論点をまとめて捉えることができました。「論争」をリアルタイムで読んだ女たちは、さぞかしワクワク感やヒヤヒヤ感を持っただろうと想像したりもしました。そして何よりありがたいと思ったのは、今も語り継がれる「代表作品」を読むことで、100年後を生きる私たちの状況の問い直しにつながったことでした。丹念に過去の作品を読むことを通して、今日的課題を考えるために新たな視点を得られたと思います。
私たちが読書会で「古典」を手に取って読めたのは、それらを「再録」した文献のおかげです。丸岡秀子編『日本婦人問題資料集成』(ドメス出版)や堀場清子編『「青鞜」女性解放論集』(岩波書店)、井上輝子・上野千鶴子ほか編『新編 日本のフェミニズム9―グローバリゼーション』(岩波書店)などのアンソロジーのありがたみを感じました。
前期読書会の盛りだくさんの成果をもとに、後期は「フェミニズムの代表作品を読む」の戦後編です。さらに近々のテーマに切り込んでいけるのでは、とワクワクしています。
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