最近の日本では、体外受精によって生まれてくる子が20人に1人と言われるぐらい、不妊治療は珍しいこと、例外的なことではなくなっています。けれども実際に不妊治療に臨む人や経験した人にとっては、依然としてそこにはさまざまな不安や葛藤や疎外感がつきまとうことに変わりはないようです。
竹田恵子著『不妊、当事者の経験――日本におけるその変化20年』(洛北出版、2018年10月、2700円)は、2000年代初期と2010年代初期に不妊治療を経験した計60人の当事者に対してインタビューを行い、経験者たちの抱いた感情的反応について「躊躇」をキーワードに分析し、さらにその結果をこの間の時代的・社会的変化という文脈の中で解釈しようとした本です。本の帯には、次のように的確にその内容が紹介されています。
「不妊治療は、昔と比べ、受診への敷居は低くなりました。とはいえ、治療を実際に始めるとなると、ほとんどの人は、戸惑い、不安、焦りなどの、重い感情を経験します。このような感情は、不妊治療が普及していったこの20年間で、どのように変化していったのでしょうか。/この本は、当事者へのインタビュー調査をもとに、日本の家族形成、労働環境、インターネット、公的支援などを視野に入れ、医療の素人である当事者が編み出す、不妊治療への対処法を明らかにしています。」
著者が大阪大学に提出した博士論文が元になっている本書は、社会学の専門的、理論的な解説部分がかなり多く、しかも本文だけでも500頁以上ある大著です。そのため、読み応えもありますが、ちょっととっつきにくいと感じる人もいるかもしれません。けれども、随所に登場する当事者たちの肉声からは、不妊治療を受けるという経験がもたらすさまざまな思いや感情が具体的に伝わってきますし、章と章の間にはさまれた「性的少数者の家族形成と不妊治療」や「障害と不妊治療」「不妊治療と男性」等々のコラムも、それぞれわかりやすく書かれていて、とても興味を引かれます。
また内容とは別に、表紙や装幀の美しさ、楽しさも、本書の大きな魅力になっています。不妊治療の経験者やこれから受けるかもしれない人はもちろん、類似のテーマで論文を書こうとしている人にも、ぜひ手にとって読んでみてほしいと思います。
今回、この本を会員の方お1人にプレゼントさせていただきます。
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