
書 名 フガフガ闘病記――オシャレは抗がん剤より効くクスリ?
著 者 菊池 貴公
刊行日 2018年10月5日
出版社 タイフーンブックスジャパン
何気なく夫婦で受けたがん検診から始まる、妻「ナオミちゃん」の四年にわたる闘病を、夫がふりかえっていく。夫婦の日々が、二千枚以上撮影した写真と、おだやかな文章でつづられている。オールカラー、全ページに写真掲載、ブックデザインもスタイリッシュだ。ナオミちゃんの「おしゃれチェック」みたい、と思ってしまう。それもそのはず、ナオミちゃんは、「フガフガ!」と興奮しながら、ほしいものを世界中のサイトから見つけ出すファッショニスタだったのだから。
洒落た雰囲気とは裏腹に、闘病は「S状結腸癌ステージIV、腹膜播種も見つかり余命は二年から三年」という、厳しい状態からスタートした。抗がん剤治療、がんの転移、スーパードクターを訪ねての手術、と夫婦が力を合わせて闘病する中、ナオミちゃんは、がん治療と同じくらい、いやそれよりももっと、大好きな洋服選びに力を注ぐ(抗がん剤のケースとワンピースを水たま柄でコーディネートするくらい)。彼女にとっておしゃれをすることや生活の質を変えないことは、とても大切で抗がん剤のように効果があったのだ。ナオミちゃんに限らず、誰もが自分の人生をよりよく生きよう、まっとうしよう、としている。なのに、時としてそれがままならないように感じる。女の子らしく、女子高校生らしく、女子大生らしく、キャリアーマンらしく、お母さんらしく……「らしく」が詰まった風船で「わたし」が生きる人生はぎゅうぎゅう詰めになって、とても息苦しい。
でもそんな私の中に「ナオミちゃん、がん患者らしくないなあ」と、「らしさ」を求める言葉を見つけて「はっ」とした。
ナオミちゃんは、カッコいい。それは、勝手に与えられ、押しつけられる「らしさ」からきっぱりと距離を置き、自分だけが持つ「らしさ」をギュッと握った強さからにじみ出てくる。
なんでがん患者「らしく」ないといけないの、と。
どのページを読んでも(写真をつぶさに見ても)感動ポルノなんかじゃない。亡くなってしまったナオミちゃんが、文章の隙間から、写真の奥からものすごい勢いで語りかけてくる。それは、彼女の視線がいつも(語り手である)夫に向けられているから。夫の目を通してわたしたちにもナオミちゃんの視線が届く。また夫の目を通して、ナオミちゃんへのまっすぐな気持ちを感じる。
『フガフガ闘病記』は、「らしさ」を蹴っ飛ばし、自分であることをやりぬいたナオミちゃんと、「ナオミちゃんらしさ」が大好きだった夫・菊池さんの相聞歌だ。
■松本芽久美(まつもと めぐみ)
1967年富山県生まれ。
北日本放送ディレクター、リサーチャー。
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