2010.02.27 Sat
初学者向けに平易に書かれた入門書とはいえ、本書は、これまでの解説書然とした入門書とは違う趣をもっています。なによりも、日本において学問として、女性学が定着したことを実感させてくれる、かなり重厚な著作です。ポスト構造主義(千田さんは、『構築主義とは何か』にも寄稿されています)の議論をふまえ、「性」や「性別」とは何かを論じながら(1)、近代社会の成立とリブの登場(2)、女性学のさまざまな主張(3)、そして性の多様性(4)まで、知っておくべきポイントを網羅し、女性学の意義を明らかにしてくれます。
またなによりも、これまでの入門書・概説書と異なるのは、ウーマン・リブに焦点をあて、それ以降の日本での議論を振り返りつつ、日本における女性学の営みに焦点を当てている点です。この特徴が、ジェンダーだけでなく、セクシュアリティの問題まで本書が網羅しえた理由の一つかもしれません。そう考えると、ウーマン・リブにさらなる理論的可能性を見いだそうとする新しい潮流が本書から生まれてくるかも、との期待も高まります。
田中美津さんの言葉と、難解で有名なドイツ哲学者ヘーゲルと並べるといったスリリングな読解も楽しめますが、日本で女性学が直面してきた具体的な問題について語られていると思いきや、気がつくと、バトラーやスピヴァクといった、フェミニズム論として知っておかなければならない先端のフェミニズム理論を学んでいる、といった工夫も随所にみられます。
初学者から、最先端のフェミニズムの議論に挑戦している方、そして、リブの時代を経て女性学に出会った方まで、是非とも今のフェミニズムの蓄積を実感してほしいと願うほど、本書には、パワーとフェミニズムへの愛情に溢れています。(moomin)