改正入管法が強行採決された当日、12月8日付け「毎日新聞」朝刊に、以下の記事が配信されました。
去る11月18日愛知県豊明市国際交流協会25周年記念講演会で、「多文化共生ってキモチいい? 日本社会の可能性を拡げるために」と題して講演した内容を、毎日新聞社の鈴木英生記者が現地に取材してまとめたもの。豊明市は名古屋市に隣接する郊外都市、名古屋への通勤圏でもあり、トヨタ系列の企業に、ブラジル人を主とした外国籍の労働者が多数働いています。日本で生まれた子どもたちもおり、会場ではベトナム人保育園児たちによるかわいいパフォーマンスもありました。 畑違いの国際交流事業の記念講演に上野を呼んでくださったのは、協会メンバーのおひとりの70代の紳士。朝日新聞土曜版の好評コラム、「悩みのるつぼ」に、国際交流ボランティアに協力してくれない妻へのお悩みを投稿した男性です。回答者の上野が「妻との異文化交流が先」と書いたら、その後に、「投稿したのはわたしです」とご連絡があり。その方からのご依頼とあれば、お断りするわけにいきません。お引き受けしたのは1年以上前。講演当日が、国会での改正入管法審議のまっさいちゅうとは、予想もしませんでした。それに加えて、その間に移民をめぐる上野の過去の発言に、きびしいご批判を受けていました。もろもろの事情にほおかぶりをしてやりすごすわけにもいきませんので、それらの事情にすべて触れて講演に臨みました。およそ1年有余の期間にわたるこの問題を巡るやりとりに、着地点をつける機会を得ることができました。
講演の内容は幸いに聴衆に好意的に迎えられました。豊明市の国際交流委員会のメンバーには、自身在外経験のあるビジネスマンも多く、みずからホスト社会で「外国人」として苦労してきた経験が、共感のもとにあると感じられました。
1時間半の講演内容を的確にコンパクトにまとめてくださった鈴木記者に感謝します。なお、最終的な新聞掲載原稿は紙幅の関係で削除部分が多かったため、その部分を復元してlong versionにしてあるため、以下の本文は、新聞記事そのままではないことをお断りします。「聞き書き」の著作権は語り手と聞き手の双方に属すると思いますが、毎日新聞社と鈴木記者の同意を得て、以下に掲載します。

以下本文*************
「それでも共生目指せ」(毎日新聞12月8日朝刊)

 私は、反省している。昨年2月に中日新聞で「日本は多文化共生に耐えられない」と移民受け入れに否定的な見解を示して、在日外国人支援などの関係者らから批判を浴びた。
 現在の私は、移民受け入れは不可避であり、かれらに日本国民同様の権利を保障すべきだと考えている。入管法改正についての野党の懸念はもっともだが、野党がこの問題で多文化共生社会のビジョンを語っていないことには不満を抱いている。
 私が昨年、発言を誤った背景には、近代日本の他民族抑圧の歴史と、近年の欧米に広がる移民排斥の動きがある。
 戦前の日本は、占領した中国や東南アジアの人々、植民地の朝鮮人や台湾人、それ以前に日本に統合したアイヌや沖縄の人々を差別した。土地や資源を奪い、住民を追い出し、徴用や徴兵をし、抵抗を暴力で押さえつけた。敗戦後は、旧植民地出身者の日本国籍を一方的に奪い、長年、健康保険や年金など社会保障の権利を認めなかった。参政権は今も認めていない。
 日本人は、在日朝鮮人が北朝鮮に渡った帰還事業(1959~84年)も支援した。北朝鮮の実情をうすうす知りながら、「日本で差別されるより、帰ったほうがいい」と「善意」から考えた。在日の窮状の原因である差別をなくすのでなく、在日を追い出す方を選んだと言える。
 日系人労働者や技能実習生の受け入れも始まった1990年代に、当時、労働開国に批判的だった保守派論客の発言を鮮明に覚えている。「日本が植民地出身者を含む多民族社会だったことを忘れたのは、敗戦後からの一時期だけ。再び多民族社会になったら、日本人は他民族に対する差別と抑圧の『蜜の味』をたちまち思い出すだろう」と。
 90年代以降、多くの外国人労働者が差別と抑圧を経験してきた。「エンターテイナー」として入国したのに売春を強要されたり、技能実習生が最低賃金以下で働かされたり、原発の除染作業をさせられたり…。
 しかも近年、先進国で移民に対するバックラッシュ(反動)が強まっている。イギリスは欧州連合(EU)離脱を決め、米国で反移民のトランプ氏が大統領に。フランス大統領選で極右政党党首が決選投票に残った。ドイツやイタリアでも反移民の政党が伸びている。これら移民先進国よりもうまく日本が移民問題をハンドリングできるとは思えず、もっとすさまじい排外主義が吹き荒れるかもしれないという懸念から、昨年の私は、移民受け入れ反対を唱えた。
 だが、労働鎖国を続ける「美しい衰退」シナリオは非現実的な主張だ。グローバリゼーションは不可逆の流れで、日本だけが人の移動を阻み続けられるわけがない。日本の外国人人口は、90年頃にはせいぜい約100万人だったが、昨年は約260万人にまで急増した。政財界には、人口減対策で「移民1000万人」を求める声もある。日本の人口は、2050年に9千万人台まで減ると予想される。安倍晋三首相の言う「1億人を維持」は、事実上、移民抜きには不可能だ。
 確かに、今の外国人労働者らの待遇は余りに劣悪で、今回の改正法や関連制度も不備が目立つ。「特定技能1号」の人は家族帯同を認められないが、日本で家族形成することも禁止するのだろうか。妊娠・出産も許されないなら人権侵害だ。外国人向け学校教育は不十分。行政窓口の多言語対応はどこまで可能か。大災害時の避難誘導や避難生活はどうするか……。
 問題は数限りないが、それでも、私たちは、多民族、多文化共生社会を目指さねばならない。外国人に働いてもらい、税金を納めてもらうなら、保険や年金、参政権など、日本国民と同じ権利を与えねばならない。でなければ外国人は日本に反感を持って祖国に帰り、日本人には排外主義が強まるという最悪の結果になるだろう。
 現代は、情報社会だ。価値ある情報は、異なる他者との摩擦によるノイズから生産される。つまり、「異文化度」が高い社会ほ
ど情報生産性が高い。その意味でも、さまざまな外国人に、日本に住んでもらう意義は大きい。外国籍、女性、高齢者、子供、性的少数者…多様な個性が生き生きと暮らす社会にこそ、未来はあるのだから。【聞き手・鈴木英生】

関連リンク
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