
先日、世間でも話題をさらった千葉での児童虐待死事件。職場では穏やかな人物として知られていたという容疑者の父親だが、当時10歳だった女児に対しては「しつけ」として怒鳴ったり水をかけたりしたと、事件の後に認めている。
そんな「どこにでもいるような普通の親」が子を「虐待」するという一線を越えてしまう怖さに、正面から向き合ったのが本作だ。
物語は静岡在住の専業主婦・石橋あすみ(36歳)、神奈川在住のフリーライター・石橋留美子(43歳)、大阪在住のシングルマザー・石橋加奈(30歳)の3視点で進む。
「自分はとても恵まれているし、幸せだ」と思っていたあすみの暮らしはある時、一変。義母に認知症が発覚し、一人息子の優(8歳)は、どうやら優等生の顔とは別の顔を持っているようで……?
めっきり仕事が減ったカメラマンの夫に代わり、バリバリと働く決意を固めた留美子は、やんちゃ盛りの長男・悠宇(8歳)と次男・巧巳(6歳)に振り回されてばかり。ちょっとでも家事を分担してほしいと夫に持ちかけるも、いつも嫌な顔をされて……。
新しい女と出て行った夫とは別れ、パートを掛け持ちして息子の勇(8歳)を育てる加奈は、その暮らぶりしゆえか、勇がクラスで盗みの疑いをかけられていると知り――。
単行本刊行時(2016年)、母親読者からの共感度96%(ブクログ調べ)という圧倒的支持を得た本作の強みは、まるで現場にいるかのようなリアルな描写力にある。著者と同じく作家であり、母である宮下奈都氏は「暴力の衝動は、きっと誰の中にも潜んでいる。そこから目を逸らさず書き切った、深い勇気を讃えたい。」とし、社会学者の上野千鶴子氏は、「母性の果てにあるのは、相手を思うようにしたい、という支配欲だ」とした上で、「この作品から伝わるのは、母であることの恐ろしさだ。そしてその背後にある、父であることの無責任さだ。」(解説より)と本作を考察する。
物語の冒頭で、ユウを「馬乗りになって平手打ち」し、「力いっぱい突き飛ば」し、「髪をつかんで力任せに頭を床に打ちつけ」たのは誰か。自身の目でぜひ見届けてほしい。そして本作が自分を含め警鐘の書となることを切に願う。
書誌情報はこちらから
https://www.kadokawa.co.jp/product/321806000298/
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