ニューヨーク・マンハッタンの、ほぼ中央を縦断する5番街。有名なエンパイア・ステート・ビルや、ロックフェラー・センター、メトロポリタン美術館などが並ぶその通りにあるニューヨーク公共図書館本館は、荘厳なボザール様式の建物で、図書館利用者のみならず、観光客もひっきりなしに訪れる観光スポットでもある。1911年の建設から100年以上が過ぎた今なお、堂々とした姿で<あらゆる人々>を迎えている。

「ニューヨーク公共図書館」は、この本館をふくむ88の地域分館、および4つの研究図書館を加えた92館で構成される、世界最大級の図書館だ。地域にある図書館といえば、「無料で本が借りられて、新聞や雑誌も読める、自習室のある場所。ときどき市民向けの講座もひらかれている…」というイメージがごく一般的なものだと思うが、ニューヨーク公共図書館では、そういったイメージをくつがえされる斬新なサービスを次々と展開している。「ここが図書館?」と思うような建物の美しさや目をひくインテリア、空間デザインのすばらしさもさることながら、地域ごとの特性や市民のニーズに合わせて工夫された事業の多彩さにも目を奪われるばかりだ。そもそも収集されているものが、すでに「図書」の枠を超えている。

本作は、ドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマン監督が、この図書館のあちこちを訪ね、スタッフしか立ち入ることができない舞台裏や、運営にかかわる大小さまざまなミーティングにまでカメラを持ちこみ、尽きない魅力の源泉にせまったドキュメンタリー映画である。なんと205分、3時間25分の作品で、劇場では上映中に休憩が入るほどだが、長さは全く感じさせない。ワイズマン監督の編集の妙も堪能できる作品だ。

ニューヨーク公共図書館は、運営方法にも特徴がある。もともと19世紀半ばにあった2つの個人図書館が前身で、篤志家の寄付をきっかけに公共図書館としてスタートした。以後、規模を拡大しながら官民連携(パブリック・プライベート・パートナーシップ)で、つまり市の出資と民間の寄付によって財源を確保し、独立法人が運営にあたってきた。劇中でも何度か強調される「パブリック・プライベート・パートナーシップ」を最大限生かし、全ての人に開かれた公共としての使命をはたすべくスタッフたちが運営に力を注ぐ様子は、これからの「図書館」だけでなく、あるべき/より良い「公共」を考えるうえで余りある材料と刺激をくれる。

ここが、なぜ世界最大級の「知の殿堂」であるのか。そもそも「知」とは何か。知をめぐる「公共/公共性」はどのように支えられ/はぐくまれるべきだろうか――。はじめは、この図書館のスケールの圧倒的な大きさと、そこに集う人々の多様な姿にただ興味をひかれていたのだが、しだいに、そのような抽象的な問いと答えのイメージが想起されてくるところがじつに面白かった。

というのも、ワイズマン監督自身は劇中で「何も語っていない」し、被写体たちも、ひとり残らずこちらに向かってはひとことも語らないからだ。監督は、ニューヨーク公共図書館という「場」の表裏に集う、立場の異なるバラエティ豊かな人々を見つめていくが、決して自分は登場せず、カメラの向こうにいる誰かに質問することもない。これまでの彼の作品がほぼ一貫してそうであったように、本作でも、状況を説明するナレーションや字幕・テロップ、後付けの音楽も入らない(だが、現場で拾った音楽の使い方は最高!)。スクリーン上の人々の営みを興味深く眺めているうちに、いつの間にか、人間がその場に「そのように映っている」ことの意味を――彼のイメージと思考の軌跡を――追いかけ、自らもまた思考せずにはいられなくなる、ワイズマン監督の編集のマジックは本作でも健在だ。

精神異常犯罪者の矯正院での日常を映した問題作『チチカット・フォーリーズ』で1967年に監督デビューして以来、ワイズマン監督は『高校』『福祉』『動物園』『DV ドメスティック・バイオレンス』など、多様な組織や機関の日常をとおしてアメリカ社会を描写し続けてきた。その彼が21世紀の今、ドキュメンタリー映画41作目にしてニューヨーク公共図書館を選んだことに、つよい必然性を感じてしまう。彼が見せてくれた、ニューヨーク公共図書館という「知と公共性をはぐくむ装置」をとおして、自分の足元にある公共を見つめてみたい。本作は、全国各地で連日大ヒット中だという。図書館そのものへの関心はもちろんのこと、公共の在りようへの関心と危機感もまた、同様に高まっているのだという気がする。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)

5月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー!

監督・録音・編集・製作:フレデリック・ワイズマン
原題:Ex Libris - The New York Public Library|2017|アメリカ|3時間25分|DCP|カラー  字幕:武田理子 字幕協力:日本図書館協会国際交流事業委員会
配給:ミモザフィルムズ/ムヴィオラ

コピーライト:© 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved
映画公式サイト:http://moviola.jp/nypl/


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