書 名 <化外>のフェミニズム―岩手・麗ら舎読書会の<おなご>たち
著 者 柳原恵
発行元 ドメス出版
発行年 2018年4月1日

 <化外>とは、聞き慣れない言葉である。「文化の果てる地」、「辺境」、「後進地」と言われ、中央の政治・文化圏からふるい落されてきた、東北・岩手を指している。
 疎外され、収奪の対象としてしか、存在しない、周縁化された地、<化外>の地を新しい歴史記述を生み出すための立脚点として著者は捉え直した。そして、そこに暮らす女性たちはいかに生きてきたのか。当地の方言「おなご」という言葉で彼女たちの生きた軌跡をたどり、今の日本のフェミニズムのありようにも迫っている。
 東北の地で、著者は「おなごわらし」として育った。大学進学に際して、「娘を大学にやってもどうせ結婚したら終わり。金をドブに捨てるようなもんだ」とわざわざ親にいってくる人がいた。そんな中で進学した首都圏の大学で、東北をあからさまに蔑視する他地方出身の学生の言動に憤慨する。が、同時に、生まれ育った東北の「後進性」、「保守性」に気づき、打ちのめされるという内なる東北差別を身をもって追確認する経験もした。 「岩手にウーマンリブの運動はあったのか」素朴な疑問から始まった調査から、岩手県北上市を拠点としてフェミニズムの視点から活動する小原麗子(1935―)と石川純子(1942―2008)、および小原が主宰する「麗ら舎読書会」(北上市・女性会員12名)の人々に著者が出会ったのは、必然だったように思われる。
 小原麗子はリブやフェミニズムという言葉が存在しない時代から、経済的自立、読み書きできる時間と場所の確保、自らの生き方を決定できる自由の獲得を目指してきた。血縁に基づき、ジェンダーを軸として構成員を序列化する「家」とは異なる、選択縁の構築を企図して立ち上げたのが麗ら舎である。「詩を作るより田を作れ」「おなごは本など読まずともよい」という風土の中で、ムラに住み、生活記録派の詩の書き手であり続けている。
 石川純子は1960年代の安保闘争など政治の季節に青春期を過ごし、学生運動を通じて男性に伍して生きる主体の構築を目指した。結婚し、妊娠・出産に当たっても、女性が孕み、母になることは決して「自然過程」ではなく、つねに問い直されるべき既成のイデオロギーの一つとしてとらえる。石川の女性解放論、「孕みの思想」である。
 東北の女性たちがそれぞれの実生活の中で、性差別、家意識、貧困などさまざまな困難に身を置きながら、格闘し、借り物でない「おなご」の思想が生み出された。この鉱脈を掘り起こし、世に問うた著者の情熱が熱く伝わってくる。この書はもともとは研究論文として書かれ、調査も記述も綿密である。しかし、著者自身の心の叫びが、単なる論文の域を遥かに超えて、読む者に迫り、深い感動を与えてくれる書である。

■宮﨑 黎子(みやざき れいこ) 地域女性史研究会編集委員、オーラル・ヒストリー総合研究会代表
『葦笛のうた―足立・おんなの歴史』(共同執筆 1989年 ドメス出版)、『オーラル・ヒストリー 橋浦家の女性たちー』(共著 2010年 ドメス出版)、「女性史・史資料の保存・公開の可能性をめぐって」(『地域女性史研究』創刊号所収、2018年)