今月の弁護団は、10月に予定されている期日までの課題(不正入試の違法性についての法律構成)を検討している。被告東京医科大学は、今回の不正入試は採点ミスと同程度の問題と主張しており、愕然とする。なぜ、これほどまでに多くの受験生や家族が怒りの声を上げているのか全く理解していないのである。
さて、7月の参議院選挙で新潟選挙区から立候補し、現職の自民党議員を破って当選した当弁護団の共同代表打越さく良弁護士から、私に対するこの連載への指令は、あまりかたぐるしい法律論でない話題を書け、というものなので、以下、少し話題を変えようと思う。
男性弁護団員
当弁護団は総勢70名で、男女比は男性1割、女性9割。私は1割の男性弁護士のひとりということになる。昨年8月に弁護団最初の記者会見をしたときの画像をみても、登壇した私ともう一人の男性弁護士は隅っこで、記者会見全体は共同代表や事務局長が仕切っていた。会見の最後の方になって、ある記者が「男性の弁護士からもコメントが欲しい」といきなりの指名を受け、不意を突かれた。女性差別を中心テーマにしている弁護団で男性が参加していることに関心を持ったのか。
私は、日弁連の両性の平等に関する委員会に所属し、また、DV事件を多く扱っている弁護士なので、必然的にDV被害に悩む女性が依頼者として多い、そのときもどうして男性が女性の代理人なのか、という見方はされる。
しかし、男性だから男の味方で、女性だから女性の味方・・・ということはないし、あってはならない。むしろ、男性だから女性の側にたって女性差別の解消に尽力すことに意味があると考えている。性差別の解消でありながら男vs女という構図にはしたくない。そもそも憲法も14条で男女平等を唱っているわけではなく、正確には「全て国民は、法の下に平等であって、・・・性別・・・により・・・差別されない」としているのだから、法律家である以上男女にかかわらず「性別」による「差別」の解消に向けて活動すべき、と確信している。これが私が、この弁護団に参加した基本的理由である。
男性医師の問題
実は、もう一つあり理由がある。もともと私は、医療事件(医療過誤訴訟)がやりたくて弁護士になり、実際、医療事件の弁護団員として活動してきた。そこで見る臨床現場は、いまだに閉鎖的で、封建的な印象が強い。特に女性医療者が結婚し、一旦家庭に入ると、再び臨床現場に復帰することはと難しいというのが現状であり、勢い、男性医師だけで当直(夜間や休日診療)やオンコール(緊急呼び出し)体制をとっている。こうした臨床現場の現実が女性医師は使い物にならないから、そもそも医学部に入学すること自体を歓迎しない雰囲気の背景となっている。
確かに、結婚し、出産と育児を担いながら臨床現場でも活動することは容易ではない。しかし、臨床現場に復帰したいという意欲がある女性医師にはなんとか復帰して欲しい。それを妨げているものは何か。女性医師の結婚相手の7割超は男性医師というデータ(中村真由美「女性医師の労働時間の実態とその決定要因-非常勤勤務と家族構成の影響について」(東京大学「社会科学研究」第64巻第1号)に照らすと、女性医師を家庭に縛り付けているのは男性医師ではないかという実態が透けて見えてくる。
要は、家事と育児の分担ができていないのである。臨床現場が過酷であり、とても育児に時間を割けないというのが本音だろうが、同じ悩みは他の業種でもあり、少しずつ改善してきて現状に至っている。医療界だけが特別ではない。
処方箋
ではなぜ、男性医師に家事育児を分担する意識が乏しいのか。私は、こうした男性医師を育てた家庭、特にその母親の影響ではないかと想像している。息子に対し、家事の手伝いなどそもそも男の子はするものではない、勉強だけしていなさい、将来結婚しても妻にやってもらいなさいという教育を息子にしてきた結果ではないか。
臨床現場に復帰する意欲がある女性医師と、家事育児を分担することを厭わない男性医師の夫婦であれば、今よりももっと多くの女性医師が復帰できているはず。男性医師の勤務時間に制約がでてくるが、それでも経験ある女性医師が臨床現場に残ることを考えると、将来的にも医療スタッフの充実につながるのだから国民の健康と福祉には利益になる話だと思う。
その意味で、鍵は男性医師の家事育児分担の意欲ではないかと思っている。
だから、これからの医学部入試の面接試験では、是非、男性受験生にこう聞いて欲しい。
「あなたは将来、結婚して家庭をもったら、家事や育児をどのくらいやりますか」
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