
本書では、EU法(※注)における1970年代半ばから現在までの、様々なジェンダー平等実現のための法理の生成と展開を紹介し分析し、日本法への示唆を提起しています。
EU法では、まず、男女同一価値労働同一賃金原則や男女別取扱禁止法理の徹底が図られ、男女格差や女性排除の是正が大きく前進しました。
しかし、同時に、「隠れた女性差別」や「比較対象者の選定の困難」、「レベルダウンによる“差別是正”」などの問題にも直面しました。それを克服するために、EU法では、「間接差別禁止法理」(多くのパート差別を間接女性差別として是正)や、妊娠・出産差別禁止法理、セクシュアル・ハラスメント法理などが、裁判の積み重ねにより生成され立法化されてきました。
さらに、消極的に差別を禁止するだけではなく、より積極的に平等を実現するための「ポジティブ・アクション法理」や、「職場の処遇システムや法制度自体の構造的変革」がジェンダー平等の保障として提起され、紆余曲折はありつつも進展してきています。
近年のジェンダー差別は、その形態やメカニズムが大きく変化してきていますが、日本の立法や法解釈は、それに殆ど対応できていません。日本のジェンダー平等に関する立法や法解釈を前進させるために、EU法での判例や立法の展開、議論から得られる示唆は少なくないと思われます。日本の差別に取り組んでいる多くの方々に、ご一読いただき何かの参考としていただけたら幸いです。
■注 EU(欧州連合)は、第二次大戦後その前身が、不戦のための経済統合(欧州単一市場形成)を目指して設立され、共通する社会問題にも取り組みつつ統合を深めながら、現在に至っています。
加盟国が主権の一部をEUに委譲するという、国家連合を超えた独特の共同体です。EU独自の、加盟国の法に優位する法をもっており、EUの性差別禁止法は、これまで、独・仏・英など加盟諸国のジェンダー差別を是正する上で大きな役割を果たしてきました。
■ 黒岩容子:日本女子大ほか非常勤講師・弁護士。主要論文として、「ジェンダーと労働法」日本労働法学会編『講座労働法の再生 第6巻』 (日本評論社、2017年)、「女性活躍推進法の意義および課題」季刊労働法253号など。
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