
『第三夫人の髪飾り』を渋谷Bunkamura ル・シネマで鑑賞しました。
終演後、上野千鶴子先生のトークショーがあると知り、2列目の真ん中の席を予約し、映画の予習もして、雨模様というのに、意気揚々と出かけてゆきました。
上野先生と何度も視線が合う近さでトークを聞くことでき、すっかり“ウエノマジック”に魅せられ、「感想を書きたい方いらしゃる?」という問いかけに、すぐに「ハイ!」と手を挙げました。
こうして、今、“WAN ”に投稿するための感想を書いているのは、とても不思議な気がいたします。
映画のあらすじは、公式サイトや紹介文を読んで頂くとして、
この場では、私の感想を書かせていただきます。
まず最初に特筆すべきは映像の美しさです
。
太陽は優しく、月は妖しく、光を放ち、秘密めいた人々を優しく包んでいました。
雨も風も、花も虫も、髪飾りや装飾品、実用品にいたる小物も
きめ細かく用いられ、
どこの一片を切り取っても絵になる描写です。
先月、ベトナム・ハノイに旅し、ハロン湾の自然美に心奪われてしまった私は、
映像を観ているうちに、あの湿った風の匂いを感じ始め、
まるで、ベトナムに戻ったような気がしてきました。
「あの器はバッチャン焼きだわ」
「真珠の首飾りはハロン湾で作られたに違いないわ」
小物も見逃せません。すべてが一つひとつ選ばれたものだから…
邦題に「髪飾り」が付けられた意味は映画を観るとわかりますが、
キラリと光るセンスの良さを感じました。
また、女性たちの衣装もハレ(晴)とケ(褻)が鮮やかに描かれています。
〈ハレ〉の日に纏うシルクのアオザイと日常の木綿の普段着の使い分けは見事です。
この家は養蚕で富を得ていると思われますが、
それでもシルクのアオザイは滅多に手に入れることはできません。
アオザイを纏った日の女たちの「ハレ」の笑顔が素敵でした。
ヒロイン メイは14歳で第三夫人に迎えられました。
男の子=世継ぎを産むための道具のような存在です。
上野先生はおっしゃいます。
日本でも同じようなことが行われていましたね。と。
最たる例は皇室です。
大正天皇の母上は明治天皇の側室柳原愛子様です。
側室も第三も「愛人」ではなく、お世継ぎを産む大切な存在なのです。
大正天皇は側室をお持ちにまりませんでしたが、4人の男子に恵まれ、
皇位は難なく昭和天皇に継がれました。
昭和から平成へ時は移り、側室の存在はなくなり、皇太子妃に重責が課せられるようになりました。
めでたく皇后になられた雅子様も世継ぎを産むという重圧を受け、どれほどお辛い思いをされたか、そのお苦しみは誰もはかりしれないと思います。
庶民でさえ、浅草の商家に嫁いだ私は男の子=後継者を産む事をはっきり要求され、「私は道具なの?」と涙を流した夜もありました。
「第三夫人の髪飾り」に描かれているのは、昔の、異国の、物語ではないのです。
時を違わず、もう一つ小さな石が投げられました。
投げたのはアメリカ在住で牧師の叔父でした。
台風19号前に帰郷し、今生の別れをした最後に、
「僕はね、クブシロオチミ先生の鞄持ちをして旅したことがあるんだよ」
と唐突に言いました。
「クブシロオチミ先生、知ってる?」
急いで調べてみると
《久布白落実 徳富蘇峰・蘆花の姉音羽を母として生まれ、大叔母矢島揖子の女子学院で学び、やがて、日本基督婦人矯風会を中心に活動し、明治から戦後まで、廃娼運動に身を捧げ、売春禁止法制定に尽力した》
日本のフェミニストの草分けの方だと知りました。
この小石から広がる波及効果は少しずつ大きくなりました。
落実さんを知りたい!いろいろ調べて、本もAmazonに頼みました。
自伝「廃娼ひとすじ」が届いた日は折しも先生のご命日10月23日でした。
そして、その日、『第三夫人と髪飾り』で上野千鶴子先生がトークショーをするこを知り、即座に申し込んだのです。
ジェンダーの観点から映画を観てみたいと思いました。
ベトナムの女性監督アッシュ・メイフェアは
曽祖母の体験に基づいて作品に仕上げましたのに、
ベトナムの上映をたった4日で自ら取りやめました。
13歳の主演女優の母へのバッシングを考慮しての判断です。
メイファ監督は私の息子と同い年なので、
彼女のお母さんは私と同世代。
「籠の鳥」を嫌い、かつての敵国ながら自由の国アメリカへ飛び去ったのではないかと思いす。
期待通り男の子を二人産み育て、家業の仕事もしながら、
「籠の鳥」の私はいつか、飛びたいと空を見上げていました。
時は過ぎ、いつのまにか、籠は壊れてしまっていたのに
私が飛び立つことを忘れてしまっていた!
まさか…自分で籠を作っていたとは…
少女が長い長い黒髪を裁ち鋏で自ら、
バッサ、バッサと切っていく最後のシーン。
印象的な未来を感じさせてくれました。
今からでも遅くない!
自分の人生は自分切り開くと密かに決心しました。
上野先生の生のトークをきいて良かったあ!心から思いました。
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