農家女性の戦後史

著者:姉歯暁

こぶし書房( 2018-08-27 )


農業専門紙『日本農業新聞』紙面に、農家女性による投稿欄「女の階段」が登場したのは1967年のことです。それまでペンを手にすることから縁遠かった農家の女性たちが、敗戦とその後の激動を背景に生活の中での自らの思いをはじめて綴り、社会に向けて問題を提起しはじめました。

「農家の嫁」でもあった彼女たちの投稿は、男女差別の問題、嫁姑の関係、子育てからはじまり、やがて減反や農産物輸入自由化などの農政の問題、農薬、後継者不足、農家の経済状況まで多岐に及ぶことになります。家から外出することもままならなかった彼女たちにとって、「女の階段」は、はじめて手にした社会参加への窓でした。

紙面に投じられたひとつの投稿は、波紋のように女性たちに広がり、呼応するたくさんの投稿へと結実していきます。やがて投稿者・読者たちが、農家女性の喜び・悲しみ・悩みを本音で書きつづる「回覧ノート」が誕生し、そしてそのノートを軸にして全国で農家女性たちのグループが結成されていきました。そこには徹夜で話し合い、共感しあえる、同じ体験を共有できる仲間がいました。

本書では、五十年にわたる「女の階段」の投稿と投稿者たちの証言を再構成し、農家女性たちがたどった歴史を経済、農政の変化とともに読み解いていきます。