
著者の小倉千加子氏は『松田聖子論』や『結婚の条件』などのベストセラーで知られ、難解なフェミニズムの理論を身近な話題でわかりやすく論じる《フェミニズム界いちの芸達者》です。
しかし現在は認定こども園の運営をおこなっているため多忙をきわめ、本書は2013年6月以来、7年ぶりの単行本となりました。もともとは「週刊朝日」誌上で「お代は見てのお帰りに」というタイトルで2008年1月から2014年2月まで6年間の長きにわたって連載されていたエッセイを収録したものです。民主党政権、そして東日本大震災を経験した日々、ということになります。
著者が「あとがき」で記しているように、当初は1回ずつで終わっていたものが次第に数回にわたるものが多くなり、その内容もテレビコラム的なものから《人物論》にシフトしていきます。どんなテーマでも心理学的なフィルターを通して語られる著者のエッセイは1回ずつのそれでも決して古びていませんが、数回にわたったものは掘り下げが深くなる分、分析的な要素がより強まっているように思われます。
冒頭に収録した中島梓と佐野洋子の人物論は秀逸です。中島梓の場合は絶筆となった『転移』をていねいに読みこむことで、佐野洋子の場合は個人的な交流を通して語られた彼女の「本音」を随所に盛り込むことで、ともに《母と娘の問題》に迫っていきます。
著者はあとがきで「当時から母娘関係に深い関心を抱いている」と記していますが、愛してくれなかった母を娘はどのように許すのか、どのように付き合うべきなのか、という問題をこのエッセイは柔らかな筆致で問うています。
タイトルの「草むらにハイヒール」は、収録のエッセイで取り上げた歌人・栗木京子氏の「草むらにハイヒール脱ぎ捨てられて雨水の碧き宇宙たまれり」に拠っています。栗木氏は「専業主婦の優雅で明るい虚無感を、その内部にいて苦しみぬくことを選んだ」と評されていますが、ハイヒールを脱ぎ捨てた女はどこへ行ったのでしょうか。小倉氏があとがきで書いている文章が印象的です。
「ハイヒールを脱ぎ捨てて、どこかへ行ってしまわなかった母親たちの娘が、作家となり、母のことを書く」
取り上げた人物はキムタクから小沢一郎まで、話題は結婚制度、政治、芸能、犯罪と多岐にわたる88本のエッセイ。圧巻の352ページです。
*著者送ら千加子さんと栗木京子さんのトークイベントが、2月7日(土)19:30から、ジュンク堂池袋本館で開催されます。
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