
1990年代、写真界を牽引した若手写真家たちに与えられたのは「女の子写真」という称号でした。本書はこの時代の写真潮流に注目し、作家のジェンダーをその根拠に据えた芸術潮流やカテゴリーは成立可能なのか、また、もし可能ならどのようにそうだといえるのかについて論じています。
まずは、1990年代から2010年代までの雑誌、新聞に掲載された「女性写真家」、「女の子写真」、「ガーリーフォト」についての語りを取り上げ、それらひとつひとつやその集積が、当時の若手女性写真家をどのように一つのカテゴリーとして構築していったか、また、その言説が当事者たちの活動にどのような影響を及ぼしたのかを検討していきます。当事者より1、2まわりも年上の男性論客が「女性性」や「女性原理」を根拠に構築した写真潮流は、表面的には賞賛に見えても抑圧的であることを指摘し、フェミニズムの文献をひきながら彼らの言説の解体を試みます。
最終章では、90年代の写真潮流と第三波フェミニズムとの影響関係を”発見”することで、ガーリーフォトの再構築を目指します。1990年代の女性写真家たちの主要な主題であったセルフ・ポートレイトをナルシシズムと結びつけて解釈した「女の子写真」の言説に対抗し、ここではそれらを過熱する「ヘアヌード写真」ブームに対する女性たちの反乱と捉えます。また、「社会への興味の希薄さ」と評されたスナップショットは、男性中心主義的なアートのクライテリアへの抵抗であり「”撮る”に足らないもの」と見過ごされてきた(主に女性に担わされている)日常生活の価値を再発見するための行為だとみなします。さらに、これらの表現活動と欧米諸国における「ガーリー」または「ガール」ムーブメントとの類似性や相関性に言及します。
「女の子写真」と「ガーリーフォト」はこれまで同じ潮流の別称だと考えられてきましたが、本書では両者を別のものとして論じます。そのうえで、この潮流がフェミニズム的な草の根運動であったことを仄めかす「ガーリーフォト」というカテゴリー名を、当事者や若い女性(写真家)自らが選び取ることを提案しています。
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