はじめまして.森屋淳子と申します.
2019年夏に,大学教員である夫のサバティカル(在外研究)に帯同して,小学3年生と年長の息子2人と家族4人でフィンランドにやってきました.
私は日本では医師として働いており,医師の働き方やワークライフバランスに興味があったため,現在は科研費で,フィンランドで働く医療従事者を対象にインタビュー調査等を行っています.
そのようなわけで,この連載では,フィンランドで見たジェンダー意識・子育て支援を医療者・母親目線でお伝えできれば,と思っています.

雪の中,森の公園に遊びに行く子ども達.フィンランドでは雨でも雪でも毎日,外遊びします.



 皆様はフィンランドと聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
サンタクロース,ムーミン,サウナ,北欧デザイン,森と湖の国,高福祉高負担…などなど.最近では,国連が発表する幸福度ランキングで2018年,2019年と2年連続で世界1位に輝いたこと,史上最年少34歳の女性首相が誕生したことでも注目を集めている国かと思います.

その史上最年少サンナ・マリン首相誕生のニュースで,私がビックリしたのは以下の3つです.
1.”34歳女性“が首相になっても,フィンランドでは特に驚かれていないという「年齢・性別に囚われない社会」
2.レインボーファミリーに育てられた生い立ちを公表し受け入れられているという「先入観・差別感のない社会」
3.前年にお子さんを出産したばかりの“お母さん”が首相として活躍できるという「子育て支援がしっかりした社会」

今回のレポートでは特に,1番目の「“34歳女性”が驚かれていない社会」について,私がフィンランドで感じたことをお伝えします.

*半数近くが女性議員
 毎年発表される「ジェンダー・ギャップ指数(2019)」で,フィンランドは153カ国中3位です(日本は過去最低の121位).女性議員の割合も多く,国会の200議席のうち92名が女性です.
マリン氏率いる社会民主党が連立を組む4党の党首も全員女性で,うち3人が35歳以下.サンナ・マリン首相も女性首相としては3人目で,フィンランドでは「女性初の~」という表現は使われなくなっているようです.
ちなみに,フィンランドでは,女性医師の割合も58%と過半数を占めています.
「女性は出産後,仕事が出来なくなるから入試で差別するのも仕方ない」みたいなロジックは,時代錯誤も甚だしいです.

*肩書きや年齢は関係ないフラットな関係
 フィンランドでは,名字(ファミリーネーム)でなく下の名前(ファーストネーム)で呼び合うことが一般的です.
夫がフィンランドで所属している大学では,学生が教授に対して毅然と反論することも当たり前らしく,肩書きや年齢に関係なくフラットな関係が当たり前のように築かれている様子です.

*変化や失敗を恐れずにチャレンジと見なす文化
 変化や失敗を恐れずにチャレンジと見なす文化があり,教育を投資と考えて国をもり立ててきたからこそ,年配者が若い人に対して責任ある立場を任せることをプラスと考える文化の影響もありそうです.

*幼少期からの主権者教育
 フィンランドはプレスクール(年長)から大学院まで学費が無料です.義務教育では,学費だけでなく,給食,教材,文房具も無償で提供されます.
これは,私たちのような外国人に対しても同様で,国籍によらず「教育の機会の平等」を大切にし,実践していることが伺えます(厳密に言うと,2017年秋より一部の大学プログラムは非EU/EEA圏の留学生に対しては有償となったようですが).
 また,次男が通うプレスクールでは,12月6日の独立記念日にちなんで,“模擬選挙”イベントが行われました.
これは,子ども達が“大統領”に立候補し(ほぼ全員が立候補します),一言スピーチと立候補写真が,玄関前に貼り出され,その数日後には,投票用紙と投票箱を使って投票する,というイベントです.子ども達の投票で“大統領”に選ばれた子は翌日,皆の前で大統領の挨拶をしたそうです.


次男のプレスクールに掲示された立候補写真と一言メッセージ(ぼかしを入れてあります)



   プレスクールの先生に伺ってみると,そういったイベントを通じて社会の仕組みを実践的に学んでいく,とのこと.
また,小中,高校では実際の国政選挙と同じ候補者に票を投じる模擬選挙が行われ,その結果に各党がコメントを出す,という慣習もあるそうです.
そういった幼少期からの主権者教育が,34歳首相を生み出す土壌になっているのだと思います.

 また,サウリ・ニーニスト大統領の「子ども達こそが私たち社会の未来」という言葉どおり,フィンランドは人口550万人の小さくて資源の少ない国だからこそ, "人を資源にすること"を真剣に考えていて,自分や周囲の人たちが幸せになるために本当に必要なことは何か,を小さいうちから子ども本人にも考えさせる(というよりは一緒に考える)教育があるように感じています.

*フィンランドにも課題はあります
 一見すると“パラダイス”のように感じるフィンランドも,平均給与や育休取得率の男女差は課題となっている様子です.
また,少子高齢化,景気低迷,移民増加など多くの問題も抱えているようです.しかし,長期的な目線で,「費用対効果が高く,国の発展につながる方法は何か」を冷静に判断し,しなやかに対応しています.



日本でできることは何か?

 以上,「“34歳女性の首相”が驚かれていない社会」についてフィンランドで感じたことを紹介させていただきました.
上下関係を重んじる日本では,全てを真似するのはなかなか難しいかもしれませんが,「国民が幸せになるために本当に必要なのは何かを考えること」くらいはできるのではないか,と私は考えます.

2019年12月 ヘルシンキのクリスマスマーケットにて