
「題名から、性暴力の本かと思ったら、ジェンダーの研究書だった。なぜこういう題なの? 副題の意味は?」と、友人から問われた。ルソーなどのフランス政治思想の研究者である編者の鳴子博子さんの「はしがき」によれば、それは次のようです。
社会・政治思想の領野では、現代社会の「暴力や権力」の問題に関して近代以降の西欧における革命・運動などに連結した国家の「暴力・権力」に由来するとされていますが、これまでの多くの研究では国家という公領域のマクロ的アプローチが主流で、「ジェンダー」などの身近な私領域からのアプローチはとられてこなかった。この本は、そうした公的領域の「暴力・権力」に関わる問題に「ジェンダー」の視点からアプローチしようと試みたものです。もちろんそのジェンダーの視点は第二波フェミニズムを踏まえていますが、従来、男女(平等)の水平関係が中心で、垂直関係(世代など)は不足していたので、ここではジェンダーの「水平・垂直関係」という新たな視角がとられています。
現代社会におけるジェンダーの労働・家族・生活・差別、政治・制度・規範の問題は、日本を含めて近代国家の植民地支配にもとづく資本主義の世界的発展と関わっているので、日本の枠内で考えてもその実態や本質がみえてきません。研究対象への枠組、領域、基軸を縦横的に広げて考える必要があります。
この本の執筆者9人は、近代から現代までのフランス・イギリス・アイルランド・ロシア・(ドイツ)・アメリカなどの西欧社会や日本の(植民地や越境を含む)ジェンダーにかかわる社会思想・政治思想を研究する者たちです。ここでは従来のフェミニズムやジェンダー研究の枠組みや考え方も再検証しつつ、次のようなテーマがとりあげられています。
第Ⅰ部の「革命・反乱・亡命」では、フランス革命時の女性たちのヴェルサイユ後進や植民地グァドループでの奴隷たちの反乱の動き、19世紀ロシアの家父長権力下の貴族の家族の苦難。第Ⅱ部の「国策移民・労務政策・女性の自由」では、植民地や移民たち、とくに南方国策移民や満州移民の女性政策、戦争前後の日本の「生理休暇」政策の経緯や問題点、アイルランド女性運動における共和主義的平等論理による女性の自由化への否定。第Ⅲ部の「世代関係・自己所有・「食」の問題」では、フランスと日本の「ジェンダー」理論・観念の差異と世代という権力構造の分析、アメリカおよび日本の「自己所有」と自由理論の分析、現代日本の「食」の問題への女性たちのかかわりなどが取り上げられています。
これら各章には、これまで日本のフェミニズムやジェンダー研究ではあまり取りあげられてこなかった問題が、社会思想や政治思想の新たな視角から主題化されています。この本の目次と執筆者は、出版社(晃洋書房)のHPおよびアマゾンでみることができます。
※追加:筆者による最終章は、グローバル資本主義経済の発達によって引きおこってきた食の世界の変貌(脱地域・商品化・自由化・脱規範化)のなかで生じてくるジェンダー問題と、エコフェミニズムの食・環境論やポストフェミニズムの食のケア論をとりあげています。
(河上睦子 記)
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