書 名 市川房枝――女性の一票で政治を変える
著 者 伊藤康子
発 行 ドメス出版
刊行日 2019年9月
定 価 3080円
市川房枝は1893(明治26)年愛知県の農家に生まれ、1981(昭和56)年87歳で参議院議員現職のまま死去した。その間、日本は天皇制のもと、資本主義経済を育て、近隣諸国を侵略して敗北し、世界の民主主義水準を受け入れ、アメリカの同盟国として経済発展を遂げようとした。市川は近代愛知の光と影を受けとめて成長し、女性の社会的地位向上と民主政治確立のため、私心なく活動を続け、1980年参議院選挙全国区でトップ当選する、市民から信頼される政治家であった。
他方、私は、1934(昭和9)年、市川の41年後に生まれ、敗戦当時国民学校6年生、現代日本の光と影を受けとめて育ち、日本史学を学んで、市川を研究対象とするようになった。
その間、1980年代以降、日本女性は戦争の被害者であっただけでなく、協力者でもあったことが検討され、市川房枝も婦人運動家として評価されながら、政府への協力責任を問題にされる。市川房枝が本当にやりたかったことを軸に、その全生涯を正当に理解できる評伝を書きたい、女性を下流人間扱いしつつ最大限働かせ、利用しようとした日本の権力に抵抗し、婦人運動を組織し、牽引し、未来に向かう道を拓こうとした市川の全体像を描かなければならないと私は考えた。
市川が生きた時代・環境がイメージされるように、市川が育った愛知の農村、家父長制社会を書き込み、共に生きた地域の人びと、共に闘い支援した仲間の共感・批判の声で市川の姿を描こうとした。こうして市川が国内外の潮流を学習し、調査研究して、日本の婦人運動、民主政治確立のためにたてた構想と実行が、何年も先の日本を見通して、現実的な道を拓いたことを跡付けた。
そういう生涯だったから、市川は国会議員に推し出され、国会と婦人運動・市民運動を結んで活動する先頭に立ち、映画「八十七歳の青春」の主役になり、国内外から顕彰されたのではないだろうか。現在でも世界からみれば、日本女性の社会的地位は低い。思想・宗教・生活等の相違を超えて、女性が協力して闘うためには、市川の足跡から何をくみ取ることができるだろうか。